《MUMEI》

さすがに用心棒を長年やっているつわ者だけあって、二人の用心棒は衝撃が走った瞬間、素早く屋根上から地上へと飛び下り、受け身をとっていために無傷であった。
「地雷です。右側の後輪を二つヤラレました。予備の後輪に付け替えるのに急いでも一時間半。落日には間に合わないでしょう。それにどこに別の地雷が仕掛けられてるか分からない暗闇で動くのは危険です。今夜は夜営するしかないですね」
ひとりがペドロに報告している間に、
早くももうひとりはコンテナの後部の両開きのドアを開けて、キャタピラの上に燃料タンクと照明器具が乗った機械を、斜路からリモコンで操作して下ろし始めている。
太陽光を嫌う―直射日光下では仮死状態になる―死者にとっては、この紫外線照射マシーンの明かりも十二分な防御効果を発揮する。
このマシーンを四方向へ向ける事で、死者に対して半径十五メートルのバリヤを張るに等しい効果が得られる。
「サムが・・・・、サムがいないぞ?!」
ペドロが騒ぎ始め
「そう言やあ・・・・、じいさん、どこに行きやがった?」
用心棒が見回すと、馬車から五六メートル離れた場所に当の御者は頭を砂中に突っ込み、うつ伏せのままピクリとも動かない。
「じいさん死んだか?」
思わず呟いた用心棒に応えるように、
御者は頭の横に両手をつき、ズボッと
砂中から一気に頭を抜き放った。
「ぶわはーーっ!くる・・・しーーっ!
誰が死ぬかー!このボケがーー!
ワシを殺したければ、軍隊でも呼びやがれーー!」
元気なじいさんに用心棒もペドロも
苦笑した。
「あのじいさん、殺しても死にませんや」
「む・・・・確かに」
一瞬場の空気が和んだのもつかの間、
彼らは深刻な面持ちで、地平線の彼方で赤い小さな球体と化しつつある太陽と、
闇が忍び寄る周囲を見回した。
「陽が沈む・・・・」



「中将、ウサギが罠にかかりました」
彼らから一キロほど離れた小高い丘の上で、双眼鏡のレンズが一瞬鈍く輝いた。
「大将と呼ばぬか!大将と!」
「では元帥と呼ばせていただきます」
「イヤ・・・・それは誉めすぎだ。大将で良い」
闇の中うつ伏せで馬車を見下ろす二人の男は、忍び寄る闇の中でも異様な風体である事がわかる。
「では間を取って、将軍と呼ばせていただきます」
「それで良い。獲物の包囲は完了したのか?」
「は!すでに第一中隊から第四中隊まで、東西南北の四方向から奴らの周囲を取り囲み、完全に退路を断っております。今や奴らは袋の中のネズミです!」
「だが奴らは紫外線照射マシーンを持っておるぞ?」
「ご安心下さい。こちらには優秀なスナイパーがいます。」
「む・・・・勝利が見えたな」
二人は夕闇の中で不気味な笑い声を上げた。どちらの顔も肉が腐り落ち、しゃれこうべと化している。
歯がすべて剥き出しになっているために、常に笑っているような顔の中で、
血走った眼球が死者と思えない生き生きした邪悪な耀きを放っていた。
「では夜を待ち、総攻撃を開始する!」

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