《MUMEI》

「……クインローズ。貴方は、何かを知っている?」
その笑みに何か含みがある様に感じ、問うて返せば
クインローズは何を答えて返す事もしないまま
身を翻し、その場から姿を消していった
「……解ら、ない。理性を失くしてしまったら、私達は唯の獣でしかないのに」
「……?」
リトルファーの呟く様なソレに、解らず首を傾みせる田上
だが深く追求などしてもいいものかを悩み、結局は口を噤む
暫く互いに無言で立つ尽くしていたが
リトルファーはまた歩く事をはじめていた
次はどこへ行くのか
訊ねようとしたのだが、その足取りはどうやら目的を持ってはいない様で
進む道筋に、その場所を見出せない
そして大通りに差し掛かった時だった
突然、頭上から降ってきた水滴
雨かと思い、頬に当たるそれを指先で拭ってみれば
それは、真紅の血液だった
「……!?」
「上を見ては駄目!!」
リトル・ファーの怒鳴り声を聞いた時には既に遅かった
見上げてみた先に在ったのはヒトの影
ソレが口元に歪んだ笑みを浮かべながら田上へと降ってくる
その手に握られていたのは巨大な鉈
明確な殺意を持ってそれは田上へと振り下ろされ
寸前の処でリトル・ファーに庇われそれをかわしていた
「へぇ。チビのクセにやるじゃねぇか、リトル」
「レヴィ・ダックス……」
現れたのは、レヴィ・ダックス
歪んだ笑みをその面の皮に貼り付け、田上達の前へと立ちはだかる
「……リトル、お前何企んでる?」
「別に、何も」
「……言う気、ないんだな」
「アナタに話す事がないだけよ」
何も隠してなど居ないから、と
リトル・ファーはレヴィ・ダックスを正面から見据える
「……死にてぇのか?」
暫くの対峙の後
手に持つ鉈をレヴィ・ダックスは差し向けてきた
話なさければ殺す、と言わんばかりのソレに
リトルファーは田上を庇うようにその立ち位置を変える
「……何か、ムカつく。そのまま死ねよ!」
苛立ちも顕わに鉈を振り降ろすレヴィ・ダックス
僅かにバランスを崩してしまったリトル・ファーは咄嗟に体性を立て直す事が出来ず
刃を戴いてしまう寸前
リトルファーの前へ、ひとつの人影が庇うように現れる
「そこまでだ。レヴィ・ダックス」
低く響く声が聞こえ、レヴィ・ダックスの鉈が素手に受け止められていた
突然のソレに驚き身を引くレヴィ・ダックス
恐る恐る見上げる事をしてみれば、そこにラヴィの姿があった
「ラ、ラヴィ……」
「随分と、やんちゃをしている様だね」
薄い笑みを浮かべて向けてやれば
その表情に更に慄いてしまうレヴィ・ダックス
二、三歩後退り、そして脚を縺れさせその場に座り込んでしまう
「……クイン・ローズ。居るか?」
徐にその名を呼んだかと思えば
そのすぐ背後から、クイン・ローズが音もなく現れた
「……これを、どうにかしてくれないか。目障りなんだ」
「けれどラヴィ、今は――」
「クイン・ローズ!」
異を唱え掛けたクイン・ローズへ
ラヴィが珍しく声を荒げ、怒鳴り散らせば
クイン・ローズは口を噤んでしまいそのまま頷いてしまう
ソレを確認したラヴィは身を翻し
「……待ってやるのは止めにしよう。可愛い人」
「は?」
途中、田上へと向いて直ったかと思えば
田上の身体は軽々とラヴィに抱え上げられてしまっていた
自分はそこまで軽かったのかと程本当に軽々と
突然のソレに脚をばたつかせた田上だったが
不意に、その胸ポケットにからリトル・ファーが言っていた時計だろうそれがチラリ覗いていた
今なら、奪えるかもしれない
脚を更にばたつかせ、ラヴィの木が僅かにそちらへと逸れたその隙を借り
「リトル・ファー、これ!!」
胸ポケットからソレを取ってやり、リトル・ファーへと投げて渡す
突然のソレに、リトル・ファーは瞬間何事かと驚いた様子だったが
しっかりとそれを受け取ると、すぐさま踵を返しその場を走り去る
途中、僅かに振り返り、田上の身を案じている様にその顔に不安げな色を覗かせ
そのリトル・ファーへ、田上は安心させてやる様に笑みを浮かべて見せてやる
「……中々に、やってくれるね」
走り去っていくリトル・ファーを敢えて追う事はせず
ラヴィは田上へと穏やか過ぎる笑みを浮かべて見せる

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