《MUMEI》
PrologueU
〜1時間前〜

虫の声が響く夏の夜。葉にたまる夜露はそっと滴る。

「アン!アン!」

その静かなムードを壊すように響く愛犬シロの鳴き声。

今日もいつも通り夜の散歩だ。

もうすぐ家に着くというぐらいの時だった。
シロはクンクンと何かのにおいをかぎ、吠えながら夜の森へと飛び込んでいく。

「なっ、ちょ、どこいくんだよーっ!」

シロに引っ張られ走る森の中。

とうとうリードを離し、姿を消すシロに、木の根に引っかかってズテリと転ぶ。

「ったく何なんだ…」

よっこらせと体を起こし服に付いた土を払い落す。

再び森の中を歩く。
不気味な鳥の声に風でガサガサと音を立てる木々。

「おーいシロー…」

呼んでも呼んでも答えない鳴き声。



何分歩いただろうか…もう体も精神も疲れ果てよろよろと歩く。
とうとうゆらりと倒れてしまう。

そのまま上を見上げると、美しい星空。
それに励まされ起きようと横をむくと……紅。

短い悲鳴を上げて飛び起き急いで退ける。

おそるおそる近づいて確認するとそれは明らかな鮮血。

「何なんだよ…ここは…」

涙交じりにつぶやく。

もしや…この血は…

考えたくもないおぞましい光景に足並みが早くなる。
とうとう走り出した俺は獣道をゆく。

ばっと出た広場には、愛犬の姿と、コンクリートでつくられた階段があった…。

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