《MUMEI》

愛しい人に刃物を向けるのは案外に興奮する。
メガネ君の怯えた表情が、俺のセーブ出来ない残虐性に拍車をかけた。

「じゃあ、一人で脱げないなら俺が手伝ってあげる。あっ、"お願い"手伝わせて、だった」

我ながら名案だ、皮膚に触れたハサミに畏縮したメガネ君の膝が俺の背中に当たるのが、かえって燃えてしまう。


「冷た……」

「大人しくすれば、上手に切るよ……デニムって、切りにくいね、暴れたら怪我しちゃうよ?」

わざと刃を乱雑に鳴らすと、彼の血の気を失った唇のすき間から白い歯がカタカタと震動し始めた。
俺は大胆に肩紐をカットして、衿も広く鎖骨がざっくり開けるように切り込む。

縫い込まれた裾を力任せに裂いていけば、あとはすんなり進む、デニム生地から黒いレギンスの太腿が妖しく光っていた。

「せ、せっかく用意していただいたのに……」

「新しい服はまた準備するから安心して、中のシャツも切るね?お願い、いいよね?」

震えながら、シーツを握るので承諾の合図だとみなす。
こちらがかなり興奮していた分、下半身の隆起が見受けられないのが残念だ。
胸が上下するのは少しくらいは意識されている証拠だろうか。

「恥ずかしいですね……」

「それ、今更言っちゃう?」
身を攀らせて、僅かに恥じらわれた。まったりしたリズム感に癒されながら、大きくハサミを動かす。
金属との布擦れ音から白いもちもちのお腹が現れ、かぶりつきたい歯を食いしばる。

真っ直ぐ縦に刃を入れるとお腹が剥き出した。
同じ野球部員だとは思えない肉付きだ。
肋がうっすらと浮かんで、お腹は真っ直ぐに臍のラインと平行に伸びていた。

骨が所々浮き出ているのにふにゃふにゃと柔らかい体は幼児みたいだ。
それなのにちゃんと脇毛があるのがなんだかおかしい、ハサミでレギンスに穴を開けると脛毛も疎らに生えていて触ると昔飼っていた犬みたいにさらさらした毛並みだった。

内腿を撫で回すと、彼の唇から熱っぽい吐息が漏れ始めた。普段は身長差で後頭部ばかりだったので、下から覗く姿もまた一興だ。

腿に触れるフリをして、まだわざと前に手を置いて握ったりした。

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