《MUMEI》

だけどこれだけはどうしても誰にも同じには理解できない事なんだろう きっと他の誰一人も そしてあなたも無理というならば 最後のたった唯一の理解しうる可能性を失う 彼女には一瞬も現実がなかった 誰にでもその時必ず現実という一瞬があるはず 言葉でも確認でも同意でも決別でもなんであっても その時を刻んだ現実の時が だけど彼女にはそれがなかった 時がその時から無くなったんだ 止めたとか逆らったとか受け入れなかったとか そんなのとはまるでチガウ ただ何もわからない 何も答えのない 進むも戻るも今という時すらなくなった 人生ごと時間ごと空間ごと 生きる場所がなくなってしまった そして答えはないまま 生きるも死ぬも定めようがない なのに一生を誓ってしまっていた 現実と折り合えなかったとか折り合おうとしなかったとかとは ちがってた 現実が それを伝える空気も伝わる機会も 答えそのものが消えてしまった 生きた人間そこに置いたまま 人生ごと存在ごと生きてる意味の核そのものが ただはっきりと取り残されたまま 地上が地球ごと全ての日常ごと全部の明日ごと なくなった 今日がいきなり消えてしまい その続きの積み場所がまるごとなくなった 土台が失くなった日から 積めなくなった日々が 全部存在できずに宙に浮いて現実とならずに宇宙にただただ消えていった 存在する事ないままずっと それを最初の日 すべて 一瞬で悟って 最後の日までの 無数の消え失せる日が 一日で見えて 無音の中で 決定も判決も合意もないまま それは知らないまにその日さえ無音のまま 聞いたこともないまま 受ける事さえ知らぬまま 素通りされていた 音のない受け取れないところへ 触れない昨日よりもっと前へ すでに彼女が受けようもないところで 彼女はすでに昨日という日を知る以前から もう失ったなかにいる状態でそれを受けていた 気付いたら殺されてたんならまだいい もう生かされていない人生を知ったのに彼女の人生なのに死ぬ事も選ぶ権利もなく 生きる必要がないけれど生きているだけの強制だけを残された それを拒否したんじゃない それを一切問うことも最初から望ませなかった なんの問答もなく とにかく思考を絶った 死を受けると誓った その決断を完全に貫いた人間に誰がたった一言でさえ口を挟む権利を持つのだろうか 誰がほんのわずかでも彼女とは違うもので彼女を締め付ける事などできうるのか 気まぐれの日数ではない 彼女が受け入れた死の年月は彼女のそこからの人生全部だった 死に不平など一度も言っていない 死の中を歩いてきた彼女にそんなのは嘘だと生きているのが人生だと 是が非でもかぶせるのは 死をさらに殺すということ? 死以上に彼女を侮辱するということ? 生きる場所がない事から逃げないできた彼女に あくまでもこの世には生き場所のない彼女に偽物をかぶせて存在させる事が 誰かの人生の為には彼女を真実でなくす事が そうしなければ成立できない別の人生があって 存在さえなくした彼女の人生は まださらに失われなければならないのか わからない 現実に居ることさえ失っているのに 架空さえ望む趣味もないのに 居ない事を続けてきた人間に 存在しない人生を送ってきた人間に まだあと何を取り上げようとするのだろう 何も持っていない 本当に ホントウの事以外 なにも00-02

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