《MUMEI》
3.リビングデッドの夜2
闇の中を紫外線のライトに照らされて、
白い霧の塊が漂い過ぎていく。
その霧の中を、黒い人影のような何かが通り過ぎたような気がして、用心棒は
ハッとしてライフルの銃口をそちらに向け構えた。
だがすぐにそれを下ろし、
「ちっ!気のせいか・・・・」
と舌打ちする。
コンテナの屋根の上では用心棒と御者が三交代で見張りに立つ事となり、―ペドロもやると言ったのだが、我々の仕事ですので、と用心棒達が丁重に断った―
あとの者達はコンテナ内で、死人の襲撃に備え仮眠をとっていた。
(しかし、闇の向こうからいつゾンビが飛び出して来るのか分からない状況てのは、何度経験してもゾッとしねえな)
初めて死人を仕止めた幼い日の事を思い出す。
用心棒の故郷では、その頃まだ土葬の
習慣が残っていた。
母と祖父母が―何の用事だったのか覚えていないのだが―家を留守にして、ひとりで留守番を任されていた雨の夜の事。
トン・・・・トン・・・・、
ドアを叩く微かな音があった。
てっきり母たちが帰宅したものと思い、ドアに駆け寄る用心棒の耳に外から呼びかける声がした。
「開けてくれ・・・・父さんだよ・・
・・」
父は一週間前に死んで埋葬されている。
用心棒はその時代の少年にふさわしく、
家の中のライフルを持ち出すと、ドアを明け放ちながら室内の中央まで下がり、来訪者に銃口を向けて出迎え た 。
そこには雨の闇の中、死んだ父が泥だらけで佇んでいた。
白目を剥きながら指を鈎爪状に曲げて、
父が部屋の中へ踏み込んで来た瞬間、
ためらわずにライフルの引き金を引いていた。
母と祖父母が十五分後に帰宅した時、
雨の中、頭を吹きとばした父の傍に佇む無表情な少年の姿が、そこにあった。
それ以来、何人の死人をあの世に送り返してやったか分からない くらいだが、
こうして闇の中で死人の襲来を待っていると、あの少年時代の時間に引き戻された気分になる。
あの時からずっと『死』の世界に呼ばれているような気がする。

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