《MUMEI》 「……その前に、コレ何とかしろ」 千切ってやろうともがけばもがく程、きつくなっていく拘束 いい加減息苦しさを訴えてやれば 少年はやはり無言のまま、それを引き千切っていた 「……部屋に」 何事もなく先を歩く少年 それ以上何を言う様子もない少年に アルベルトは態々聞こえるほどのソレで溜息をつきその後に続く 「御滞在中はこの部屋を使えとの女王からの伝言だ」 通された部屋は一介の庭師に与えるには上等過ぎるソレで 随分と優遇されているモノだと アルベルトは却って別の思惑を疑ってしまう 室内に入っても警戒体勢を解く事はなく 周りばかりに気配を巡らせるアルベルトへ 少年は唐突に、また蔓でその身体を絡め取っていた 「……何の真似か、聞いてもいいか?」 そのまま寝台へと押し倒され そのアルベルトの上に少年の白く細い肢体が覆いかぶさってくる 「……お前の生気が、ほしい」 「は?」 返ってきた答え、これが更に不可解で 怪訝な表情をあからさまいにして返せば だが何を返す事もせず、少年はアルベルトの唇へと自身のソレを重ねて行った 女王はこの少年を自身のルークだと言っていた ならば、間近にいる今がソレを奪ってやる絶好の機会なのではと 唇を弄ばれながらそんな事を考える そして少年の舌が口内へと侵入してきた、次の瞬間 「――!?」 その舌を食い千切りそうな程強く噛んでやった 流石に痛みは感じるのか 少年は弾かれる様にアルベルトから離れて行く トロリと舌を伝っていく血液 浅くはないだろうその傷に、だが少年は何の反応もない 「……美味しい。こんな美味しい生気、久し振りだ」 表情も薄く、だが心なしか満足気に少年は舌なめずりをしてみせる 兎に角、今此処にあるもの全てが狂ってしまっている アルベルトは落胆に肩を落とし深い溜息をついた 「……もういい。俺は寝る」 これ以上問答していても無駄と判断したのか 陽も高いうちから布団をかぶるアルベルト 少年は其処に来ても出て行こうとはせず、唯其処にあるばかりだ 「……鬱陶しい。お前、出てけ」 気配があってはどうしても落ち着けず 部屋から出て行く様改めて言い放つ だが少年はゆるゆると首を横へと振りながら 「それは、出来ない。僕は女王から、お前の世話を言い使っている」 その命令はやはり絶対なのか 少年は頑として出て行こうとはしない やはりこれ以上の問答は無駄だと、改めて溜息をつくと アルベルトは自身の道具袋の中から小型の鉈を徐に取り出し 少年の腕を掴んで引き寄せると、その刃を首筋へと宛がっていた 「僕を、狩るのか?」 冷やりとしたそれに、さして慌てる様子もなく、淡々と問うてくる 敢えてソレに答えてやる事はせず アルベルトは宛がった刃をそのまま引き、薄いその肉を削いでやった だがその感覚は草木を剪定する時のソレの様で ヒトを斬ったのだという感覚はまるでなかった どさりと重たげな音が聞こえてきたのが直後 脚元へと視線を落とせば、少年が大量の血を流し倒れていた 動かなくなってしまった少年を暫く見下していると その身体がサラサラと砂の様に崩れていく 完全にその姿が消えてしまった、その直後 外に見える薔薇の全てが一斉に枯れて行くのが見えた 「……あら、もう殺してしまったの?つまらない」 「……陛下」 不意に戸の開く音が聞こえ、そちらへと向いて直ってみれば 其処に言葉通り、つまらなさそうな表情を浮かべた女王が立っていた 「……こんなの、予定外よ」 「……陛下?」 「あなたは、今までの庭師と違う。どうして、私の手に落ちてはくれないの?」 まるで拗ねた子供の様な顔をしてみせる女王 アルベルトは僅かに肩を揺らしながら 「まだ、ゲームは途中の筈では?それとも、もう降参なさいますか?陛下」 僅かばかり嘲って見せれば、女王は首を横へ そしてアルベルトを正面から見据えながら一変、満面の笑みを浮かべて見せる 「そう。私は、まだ負けた訳じゃない。お楽しみは、これからよ」 女王の言葉の終わりと同時に 土の中から唐突に大量の手が湧いて現れた どうやら手だけで生きているらしく蠢くソレに アルベルトはその異様な様に顔を引きつらせてしまう 前へ |次へ |
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