《MUMEI》
偽善者の笑み
「泣いてもいいんだよ?最近、陽菜の泣いてる顔見てなかったから僕も寂しかったんだ」

陽菜は一瞬だけ眉間に皺を寄せて、僕から顔を反らした。

「ふふっ、まだ反抗心が残ってるんだね」

陽菜が僕に反抗してるんだ、そう思ったら嬉しさから、笑みが溢れた。
反抗なんかしたら、ずっと望んでいた『僕だけの従順な奴隷』というものとは、程遠くなる。





なのに、僕は……





なんで、こんなに嬉しいんだろう…。





怯えたように、僕を見つめる陽菜の目をタオルで覆い、ヘッドホンを付けてから僕の好きなプロコフィエフの音楽を、外からの雑音が邪魔にならない音量で、流してあげた。
それから媚薬を塗り込んで、電気マッサージ機と尻尾を付けてあげると、陽菜の体は面白いくらいに、反応しだした。

「…ぅ…、ぃ…いや…眞、季…眞季…っ」

「いい子で待ってるんだよ」

僕の声は陽菜に聞こえてないだろうけど、僕は言いながら陽菜の顔を撫で、この日の為に用意してあった女物の服に身を包んで、家を出た。









「ごめん、待たせちゃったね」

約束の時間の10分前に来たというのに、僕を見付けた真鍋は申し訳なさそうに、そう言った。

まぁ…僕は20分前には、ここにいて行き交う人たちを、ずっと見てたわけだから待ったと言えばそうなんだけど…、時間に遅れたわけでもない真鍋が謝るのは、なんていうか……




腹が立つ。





「大丈夫ですよ、全然待ってませんから」

僕が笑うと、真鍋が微笑んだ。

「本当?なら良かった」



やめろよ……。
そうやって爽やか振るの…。



「どうしようか…、どっか入る?付き合ってもらってるし俺奢るよ?」


ふぅん…。
こうやって“いい男”を、作るのか…。


「大丈夫ですよ。私も陽菜のこと相談したいと思ってたから、お互い様です、気にしないでください。それに…あまり人が多い場所じゃ話し難いし」

「え…あ、そ、そっか…じゃあ、どうしよう……」


こいつは、馬鹿なんだろうか。
それとも天然?
まぁ、偽善者には変わりないか…。


「…公園にでも行きませんか?」

焦った様子の真鍋にそう言って、僕はいつもの公園に向かった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫