《MUMEI》
水音
 ピシャピシャと水音が響く下水道を、頼りないペンライトを照らして二人は進んでいく。
しかし、向かう先に何があるのかわからない。
どっちが西でどっちが東なのかさえわからないのだ。
まさかこんな所を通るとは思っていなかったので、さすがのユウゴも方位磁石は持っていなかった。

「ねえ、どこに向かってるの?」
「……さあ」
「さあって」
「わかんねえもんはしょうがないだろ。それよりユキナ、頼みがあるんだけど」
ユウゴは立ち止まって、ライトをユキナの顔にあてた。
ユキナは「何よ」と眩しそうに目を細めた。
「これ、巻き直してくれないか?」
そう言ってユウゴは左肩にぶら下がった汚れた包帯を剥ぎ取った。
「いいけど、これを巻き直すの?……なんか、汚くない?よけいに悪化しそうだよ」
ユキナは指先で差し出された包帯をつまんだ。
「だったら、他にあるか?清潔な布」
ユウゴが言うと、ユキナは少し考える仕種をしてから、思い出したように自分の上着のポケットを探った。

「なんか、湿ってるけどこれよりはマシでしょ」
彼女が取り出したのは、まさしく包帯。
「なんで、そんなもん持ってるわけ?」
「昨日行った病院で見つけたから」
「盗んだわけか」
「まあね。消毒液、まだある?」
「ない」
「だよね。あれだけ動き回れば瓶も割れるし」
「なんでもいいから、早く巻いてくれ」
「はいはい」
ユキナは頷くと、不器用な手つきで包帯をユウゴの肩に巻いていった。

「……あのさ、すっげえ痛いんだけど」
「しょうがないじゃん。わたし、包帯なんて巻いたことないんだから」
「不器用な女だな」
「……殴られたい?この左肩」
「いや、やめてくれ」

 五分以上かけて、ようやく包帯を巻き終わると、二人は再び歩き始めた。
しばらく進むと、前方からユウゴたちとは別の人間が水を跳ねさせながら歩く音が響いてきた。

二人は緊張した面持ちで立ち止まった。

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