《MUMEI》

着弾の手応えと共に、黒い人影が倒れる。
だがその人影が、すぐに何事もなかったかのようにムクリと身を起こすのが見えた。
「旦那様、奴らは頭を破壊せんと死にませんのじゃ!」
うようよと蠢く影達から、オレンジ色の銃火が闇に光り、ペドロの覗く窓際に弾が弾−はじ−けて、木片が降りかかる。



「あー、参った!方向音痴だ。俺は方向音痴だ・・・・」
その三キロメートルほど南を、ぶつぶつと独り言を呟きながら通りすぎて行こうとする者は、虎ノ介であった。
「確かにこっちの方角から『街の匂い』がしたんだが・・・・」

タタタ・・・・タン。

遠くから微かに聞こえて来る銃声に、
その耳が小さくピクリと動いた。
「ん?どこかで戦争でもおっぱじまったのか?」
一瞬立ち止まり耳を済ます。
動物か何かわからないが、明らかに生き物が発したらしい悲鳴が闇の彼方から届くと、
「君子、危うきに近寄らず・・・・」
その足は、音源から反れる方角へ進むように動き始める。


背中で大剣が微かな震動を発した。


まるで 自分にしか聞こえない声で話しかけられたかのように、虎ノ介が渋面になった。
「ちっ!相変わらず好奇心の旺盛な奴だなぁ」
その虎ノ介の声に応えるように、再び背中で大剣がうなる。
「ちょっと見るだけだぞ。遠くからな・・・・」
銃声の方角へゆらりと歩き始めた。

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