《MUMEI》
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突然だが私は文芸部に所属している。
文芸部は文化祭で文集をだすことになっており、先日の姉のノートも、それに載せる原稿の一部である。
私は部室で提出用の原稿を読み返して最終チェックを行っていた。

「翼ちゃんいたんだ」
ふと部室の扉が開き、ひとりの女子生徒が入ってきた。
「あ、赤羽先輩」
この人は赤羽 文葉(あかば ふみは)先輩。
姉と同じ二年生だ。
「それ、新しい原稿?」
「そうですよ」
「見ていいかな?(ニコ」
「文化祭のお楽しみで(ニコ」
「そっか…」
とても残念そうな赤羽先輩。
なぜだろう、胸が締め付けられるような…。
…いけない、いけない。
赤羽先輩は外見は地味なのだが、性別を問わず人を惹き付ける不思議な魅力がある。
「ところで、赤羽先輩はどうしてこちらに?」
「定期的に部室を開けるようにって、先生に頼まれて…」
「なるほど」
確かに、この部室は空気を入れ換えないと本が傷みそうだ。
「ま、今日は翼ちゃんが開けてくれた見たいだから、来なくて良かったみたいだけど」
「偶然…ですけどね」
その言い方だと、まるで私が赤羽先輩に逢うために来たみたいじゃないか…。
このままでは赤羽先輩の空気に呑まれそうだから早めに切り上げよう。
チェックの済んだ原稿を自分のロッカーに入れてから、部室の扉に手を掛ける。
「じゃあ私、帰りますね」
「ああ、ちょっと待って」
すると、赤羽先輩も一緒に出てきて鍵を閉めた。
「これから一緒にお茶しない?」
私はまだこの倒錯した煩悩と戦わなくてはいけないようだ…。

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