《MUMEI》
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私たちの文芸部では、他人の作品を読んで感想を書いた紙を原稿に挟み込む伝統があるらしい。
それを私が知ったのは、つい昨日のことだ。
しかし、その伝統が示すことは、例え個人のロッカーに入れていたとしても、他の部員に原稿を読まれる可能性があるということだ。
…それは正直、気恥ずかしい。
なので、私は原稿を回収するため、学校へ足を運んだ。

管理室を確認すると部室の鍵が無かった。
つまり、誰かが部室に居るということだ。
そういえば、土日は赤羽先輩が居るって言ってたな…。
そしてそのまま日曜日のことも思い出す。
…すごく恥ずかしい……。

早くなってしまった鼓動を収めるため、部室の前で気を落ち着かせる。
部室の中からは紙の擦れる微かな音が聞こえてくる。
人が居るのは確実だろう。
ここで、ふと悪戯心が湧いた。
普段は赤羽先輩に驚かされているので、たまには驚かせてみよう。
私は勢い良く扉を開くと
「赤羽先輩!
今日も来てあげましたよー!」
と大声で言った。
しかし、私は非常に運が無かったらしい。
部室の机では、前髪で目を隠すようにしている少女が私を見て固まっていた。
「…ぇ、えーと」
「……赤羽先輩なら今日は来ていないよ」
私が何か言う前に、少女は口を開いた。
彼女の名前は山田 響子(やまだ きょうこ)。
文芸部員で私と同じ、一年生だ。
「はは…ごめん、ごめん
勘違いしちゃった…」
恥ずかしい…死にたい…。

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