《MUMEI》
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…絶句してしまった。
先輩があんな文章を書くなんて知らなかった。
と言うか…信じてはいないけど、だいぶ飛んでたな…。
語り手は狂ってたようにしか見えなかったし。
そのまま、しばらく読み進めていると扉が開く音がした。
「…っ!」
私は勢い良く扉を振り返った。
「…どうしたんだい?」
「……いや、なんでもないよ」
山田だった。
「おや?
……赤羽先輩の作品を読んだのかい?」
「…うん」
私の手元を見て笑う。
「主人公の狂った感じが結構好みなんだよね」
「…なんかあの小説、創作物に見えないんだけど」
「確かに、経験談って感じはするね」
「だったら怖くない?」
「さすがに経験者だとしたら、自分の罪を書いたりしないさ」
「そうかな…
だとしたら、姉妹っていうのは?」
「…赤羽先輩には昔、妹がいたらしい」
それは初耳だ。
「…昔ってどういうこと?」
「…通り魔に刺されて死んじゃったんだって」

それから先の先輩についての話は衝撃的だった。
中学時代にはもう天涯孤独の身だったなんて…。
いや、独り暮らしなのは知ってたけど…。

「…本当なの?」
「天野先輩に訊けば判ると思うけど、本当だよ」
語り終えた山田は神妙な表情で頷いた。
私は、先輩とこれからどう接すればいいか、判らなかった。

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