《MUMEI》 全てが元に戻り、田上も救ってやれる、と 明らかに壊そうという意志を持って手を振り上げた 「そんな事しても、何も変わらないよ。リトル・ファー」 「……?」 ラヴィの静かな声に リトル・ファーは一瞬にして冷静さを取り戻す どういう事なのか、とラヴィの方を向いて直れば 「クイン・ローズから何を入れ知恵されたかは知らないが、それを壊してしまえば」 途中、言葉を区切り、リトル・ファーへと顔を間近に寄せると その口元に歪んだ笑みを浮かべながら 「……イーティン・バニー全ての時が失われる事になる」 穏やかにその事実を告げる 聞かされたソレに、リトル・ファーは表情を強張らせた 「それはリトル・ファー。キミも勿論例外ではない」 「……時が失われれば、私達は消えてしまうという事?」 「その通り。誰の記憶にも残らず、跡形もなくね」 それでも壊すつもりか、とのラヴィへ リトル・ファーは小さく頷いて返しながら 「全てが、ソレで元に戻るのなら」 自身が消えたとしても構わない、とラヴィを正面から見据える だがラヴィは何故か嘲った笑みを浮かべながら 「解って、いないね。リトル・ファー」 そう呟く 一体何の事か、ラヴィへと向いて直れば ラヴィは態々見せつける様に田上を抱き寄せてみせながら 「イーティン・バニーは全て消える、と言っただろう?」 どういう意味か解らないか、と表情で問うてくる 何か含みのあるそれに リトル・ファーはラヴィが何を言わんとしているのかに気が付いた 「この人も、消えてしまうという事……?」 「その通り。だから無駄な事はせず、それを、返しなさい」 催促するかの様に手を差し出してくるラヴィ 何の手だても失くしてしまったリトル・ファーは無意識に時計をラヴィへ 出された手の平へ置こうとした瞬間 「止めとけ。リトル」 その手を唐突に現れたジャック・ピーターが掴んで止めていた 驚き、そちらを向いて直れば 「そいつに渡したら多分、ロクな事になんねぇからな」 ジャック・ピーターはその手にあるナイフをラヴィへと向けていた 明らかに感じる殺気 もう、何もかもが手遅れだというのか 全てを壊すしかないというのか 絶望に打ちひしがれながら田上の方を見やり唯々呆然と立ち尽くしていると 「……け、て」 其処にあるばかりだった田上の唇が、震えながら微かな声を発する 微かにしか聞き取れなかったが 確かに助けを求めるその声に、リトル・ファーは僅かに眼を見開き そして小さく頷いた 「……あなたは、絶対に助けてあげる」 時計を握り返すと、リトル・ファーは左手に獲物である鎌を出現させる その切っ先をラヴィへと差し向ける 「ラヴィ、もう止めて。貴方がヒトを憎む気持はわからなくもない。でも!」 段々と感情を顕わにし、獲物を持つ手を小刻みに震わせながら 「……こんな事をしても、何も変わらない。貴方と同じ、誰かを憎むばかりのヒトが増えるだけ」 必死に、言葉を紡ごうとしていた 少しでも、ほんの僅かでも届いてくれれば、との思いを込めながら だが 「……それでいい。それこそが私の望んだ事だよ」 その願いは全くの無駄に終わる 本当にもうだめなのだと、改めて獲物を握り返した 「……貴方を、殺す。例え、刺し違えてでも!」 言葉の終わりと同時に、リトル・ファーは土を蹴る 瞬間、ジャック・ピーターへと目配せし ソレが何を意味するのか、ジャック・ピーターはすぐに理解した 「……まぁ、こんな展開も面白いかもな」 ニヤリ口元を歪め、ジャック・ピーターは素早くラヴィの背後に回る リトル・ファーの動きばかりに気を取られていたラヴィ 其処に僅かばかりの隙が生まれ その隙を借り、、ジャック・ピーターは刃先をラヴィへと差し向け その目の前へと向けてやれば ソレを庇うかの様に田上が立ち位置を変える 其処に田上の意思があったかは解らない だがそれに構う事はせず、ジャック・ピーターはナイフをそのまま振って向けていた 「ジャック、なにを――!?」 リトル・ファーが叫び声をあげたのと同時 その場に、鮮やかな鮮血が飛んで散った 田上が刺し抜かれてしまった、とリトル・ファーは両の手で顔を覆い 膝をその場で崩してしまう 前へ |次へ |
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