《MUMEI》
物語は幕を開けた
雨が...降っていた。
雪片 瑛斗(ゆきひら えいと)が城北高校に入って1年目の九月、秋雨前線の降らせる雨はとどまる事を知らず、各地で洪水被害をもたらしていた。
「こんな日に、机運びとかマジねえ」
ぶつぶついいながら瑛斗は屋上の倉庫へ机を運んでいる。
部室に要らなくなった机を運ぶジャンケン大会に負けたため、瑛斗は運ばせられているのだ。
部室棟から10分かけて、ようやく瑛斗は屋上の扉の前にたどり着く。
ガチャリ
瑛斗は扉を開き、外に出た。
そこで、瑛斗は目を丸くする。

そこには、雨にうたれて髪を濡らす女子生徒が立っていた。

女子生徒は俺に気付くと軽く微笑む。
瑛斗にはその笑みがものすごく冷たく感じた。
「...なにしてるんだ?」
「ここから落ちたら死ぬかな?」
瑛斗の質問には答えず、女子生徒は下を見る。
「何言って...」
ドン
下で何か大きな音が響いた。
瑛斗はフェンス越しに悲鳴の上がった方を見降ろした。
そこに広がっていたのは赤い赤い水溜りと、全く動かない人間...であったもの。
「...なっ、自殺!?」
ピクリと、目の前の女子生徒の眉が動く。
「あなた...」
言いかけて、女子生徒は首を振った。
「...飛び降りるなら屋上だと思っていたけど、どうやら使われてない3階の教室からだったみたいね」
「あんた、こうなる事を知っていたのか?」
「ええ、まあ」
女子生徒は黒い艶のある長い髪を撫でながら頷いた。
その表情には何故か困惑が浮かんでいるように見える。
瑛斗はもう一度自殺した生徒の方を見る。
そこには...

真っ黒い肌で、人間みたいな、ゾンビのような化け物がいた。

「なっ、なんだよあいつ...」
自分の声が震えているのがわかった。
「あなた、あれが見えるの!?」
慌てたように言いながら、女子生徒が目を見開く。
瑛斗は化け物を見つめた。
化け物は自殺した生徒の頭、正確にはその中身を...喰っている。
やがて、化け物は食べ終えたらしく瑛斗を見た。
そして、その血のしたたる口の端を軽くつり上げ、まるで最初からそこにいなかったかのように死体諸共姿を消した。
「...なんなんだ一体」
目の前で起きた事が脳内で処理できない。
溢れるのは、恐怖と疑問だけだ。
「...あなた、面白いわね」
女子生徒は呟く。
「なにがだよ。目の前で人が死んで、化け物がその脳みそ喰って、なんなんだよ!」
言った俺の身体を、冷たい雨が濡らすが、気にならなかった。
「...風邪をひくわ。この話はまた今度にしましょ」
そう言って、女子生徒は扉に向かう。
「そうだ、あなた名前は?」
「雪片...瑛斗」
「瑛斗君...いい名前ね。また会いましょう」
女子生徒は微笑み、去って行ったのだった。

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