《MUMEI》
黒夜
とりあえず、この日はお開きとなり、織坂を除く4人はそれぞれの家に向かっていた。
「明日から女子生徒を探すのはいいけど、そもそも学校あるのかな?自殺事件があったのに...」
初瀬が最もな疑問を口にする。
まあ、頭のいい水城だから、そこまで計算して...
「しまった。その事を忘れてた!」
なかった。
「くっ、アタシとした事が...」
「どうする?ってか、思ったんだけど、私たちがこの事件について調べてどうすんの?」
桐乃が尋ねる。
確かに調べる意味はない...が
「未来予知についても気になるし、このまんまじゃなんかモヤモヤするだろ」
それに、この自殺事件はただの自殺事件じゃないと思う...とは言えなかった。
「だな」
水城が頷く。
勘のいい水城も似たような事を考えているのだろう。
「ところでさあ」
不意に桐乃が口を開く。
同時に立ち止まった。
「どうした、桐乃」
瑛斗が尋ねると桐乃は少しつり気味の目を細め、後ろを振り返った。
「あんた誰?」
桐乃につられ、瑛斗達も振り返る。
そこには、城北高校の制服を纏った、女がいた。
し何故か瑛斗の鼓動がその女を見て、早くなる。
その理由は一目惚れなどでは無い。
恐怖だ。
ーコイツニカカワルナ。コイツハフツウジャナイ シヌゾー
そう、本能が警告する。
なのに...
身じろぎ一つ出来なかった。
その女と目を合わせただけで金縛りにあったようだ。
「私のあげた力はどう?有効に使えてる?」
彼女の声は平坦で感情が無くて...なのに妙に艶かしい響きだった。
「なんの...こと...だ?」
自分の声が掠れているのが分かる。
「だから、未来の死を見る力」
水城の言っていた未来予知が本物であると、ここで証明された。
「やっぱり、未来予知か...」
水城の声は冷静だったが、それが逆に恐怖の現れに感じられる。
「未来予知...。うん、いい線いってる」
「あなた、何者?」
初瀬が声を震わせながら尋ねると彼女は首を傾げ
「幽霊...化け物...みたいな感じ。昔の名前は...黒夜(こくや)」
そう名乗る。
「君たちに...望むのは...偽影(にせかげ・ぎえい)を取り戻すこと。...出来る?」
「なんの事か...わかんねえけど。とにかく、俺たちに関わるな」
「...」
黒夜は瑛斗に目を合わせる。
瞬間、瑛斗の呼吸が止まった。
(ぐっ...なんだ)
まるで首が締められているかのようにヒューという音が口から出ていく。
「がっ、あ...」
「瑛斗君!」
後ろからドタバタという足音とともに声が聞こえた。
必死に振り返ると、屋上にいた女子生徒が走って来ていた。
「...はくや...」
黒夜が呟く。
同時に、瑛斗の呼吸が元に戻った。
「黒夜...。ようやく現れたわね。コアを返しなさい」
「あれは元々...私のもの。それに今は...ない」
「はっ?なんで...??」
「盗られた...。だから...返してもらう。バイバイ」
そう言って、黒夜は消えていく。
比喩ではない。
本当に物理的に消えていくのだ。
「待っ!?」
女子生徒が手を伸ばすが間に合わない。
黒夜は跡形も無く消え去った。
「くっ...。...あなたたち、怪我は?」
女子生徒は瑛斗たちを見て、言う。
「大丈夫だ。瑛斗は?」
「問題ない」
俺と水城のやり取りを聞いて、女子生徒は息を吐く。
「状況...説明してもらえますよね?」
桐乃が尋ねた。
「そうね。黒夜と接触してしまった以上、止むを得ないわ」
その瞬間に、織坂宅へと帰還が全会一致で決議されたのだった。

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