《MUMEI》

「……少しは、寂しくなくなったか?」
だが聞こえてきたのは、田上の震える声
みればジャック・ピーターのナイフは田上を刺し抜く事はなく
寸前で庇い出たラヴィの身体に深々と刺さっていた
その返り血を全身に浴びた田上は其処に佇み
ラヴィの身体が崩れ落ち、動かなくなるその様を唯眺めていた
「……最後まで、寂しかったな。お前」
どうやら正気に戻ったのか、独り言の様に呟くと
泣きだしてしまいそうな笑みをリトル・ファーへと浮かべて見せる
「……リトル、時計貸せ」
その様を暫く眺めていたジャック・ピーター
徐に手を差し出すと、リトル・ファーから時計を取って奪う
「ジャック……」
ソレを、一体どうするつもりなのか、問うてやれば
何を考えているのか、ジャックはソレを田上へと放って渡していた
突然のソレを田上は何とか受け取ると
「それにはイーティン・バニー全ての(時)が入ってる。此処にあるとまた何かと面倒が起きそうだし」
持って行ってくれ。と口元に笑みを浮かべて見せる
「けど、ジャック。この人はもう……」
ヒトではなくなってしまった、と顔を伏せてしまうリトル・ファーへ
ジャック・ピーターは更に笑みを浮かべた
「だったら、お前が一緒に生きてやれよ。リトル」
「私、が?」
意外なその提案に、ジャック・ピーターの方へと向いて直れば
「そいつの(時)はもう俺たちと同じだ。って事は、解るよな」
尋ねる様なジャック・ピーターのソレにリトル・ファーは小さく頷いて見せる
「この時計が動く限り、私達の心臓は動き、歳老う事無く生き続ける」
「そうだ。元々ヒトだったこいつには俄かには受け入れにくいだろうからな」
傍にいてゆっくりとそれを理解さてやれ、と
また口元へと笑みを浮かべて見せるとジャック・ピーターはその場を後に
後に残された二人
リトル・ファーは何を言う事もなく田上の手を取ると
ゆるりその場から歩き始めた
「大丈夫。ラヴィが居なくなった事で、狂ってしまった時は全て元に戻る。貴方の家族も、無事」
「……そか」
その言葉に安堵の表情を浮かべる田上
自身がヒトでなくなってしまった事を受け入れる事は今すぐには出来そうにないが
家族が無事ならばそれだけでいい、と
田上は僅かに笑みを浮かべると、そのまま意識を手放してしまっていた
倒れ込む田上の身体をリトル・ファーは何とか支えてやると
「……眠れる間は、眠っていて。その内、眠る事さえも出来なくなってしまうから」
優しく抱き返してやった
そして聞こえ始める寝息
僅かばかり穏やかさを取り戻したその寝顔に、リトル・ファーも安堵に肩を落とす
「……ごめ、ん、なさい。この償いは、必ずするから」
せめて謝罪の言葉だけでも、とそれを呟くリトル・ファー
その表情は段々と涙に歪み、そして
その場で一人、声を上げ泣きだしてしまっていた……

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