《MUMEI》

「イシユミ、お客さんだ」
 黒い液体をいれていると、宿の主人が手招きする。
 朝から鉱石関係の客は珍しい。
 顔中が、髭で覆われた黒眼鏡の常連客が片手を上げた。
 店の一画は、鉱石の卸し場となっている。
 イシユミは、湾曲した二枚重ねの硝子を取り出すと、真っ白い布を窓際の台上に載せた。
「久しぶりだな。今回の石は、ちょっと希少かもしれないぞ」
 採掘人の男が、手のひら大の原石を取り出した。
 灰色の肌から見える所々が、斑に藍色で、鈍く輝いている。
「これは」
 男は口の両端を上へ弓なりにしたまま、開かない。
 イシユミは小ぶりの鈷を石に突き立てる。欠片を窓越しに透かして見ると、光の屈折で、石の色の濃淡が変化した。
「綺麗な色だろう」
 採掘人は、黒眼鏡を鼻孔まで滑らせ、上目遣いでイシユミの反応を覗き見ている。
 原石は、布の上に複雑な光彩を映し出していた。
「確かに。大きさも申し分ないね。買うよ。他には?」
 満足そうに採掘人は頷いた。
 結局、定番の鉱石を何種類かと斑藍の鉱石を、イシユミは買い上げることとなる。

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