《MUMEI》

 夢を見ていた。
 下宿の窓から十三夜の光が差し込んでいる。
 買い取った鉱石は、宿では人の出入りが多いため、自分の部屋へと持ち帰る。
 夜になって斑藍の石は、変化していた。濁ったようにも見えた色の純粋度が高くなり、群青色が透き通るほどである。
 イシユミは夢を見ていたが、見ているという自覚はなかった。
 身体が軽い。どこか歩きながら浮き上がりそうな感覚がして、気分がいい。
 弾力のある細い錦糸の上でも、ゆっくり渡って行けそうで、緊張感と不安の中にも、心が躍る高揚感があった。
 世界は、霧に薄く包まれている。吸い込む空気は甘く、渦巻いていた。
 粒子の全てが、甘くて芳しいもので成っているかのように、甘美であった。
 気がつくと、イシユミは一人ではなかった。
 何ものかに手を引かれているのだ。
「誰だ」
 前方を進む姿は故意に消したような陰となっており、全体像を窺うことができない。
 イシユミは逆らうことをせず、段々と重く厚くなっていく霧の世界を歩み続けていた。
「お前の名は」
 見えない姿の奇妙に低く歪んだ声が尋ねた。もちろん、聞き覚えなぞはない。
 唯々諾々と答えようとして唇が、柔らかいもので塞がれた。発しようとした言の葉を、全て吸収するように殊更、長く。
 それから吹き込まれる。 耳元で、陰とは別の声が囁かれた。

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