《MUMEI》 嘲笑を態々向けてくる執事・ト―リスへ だがアルベルトは敢えて無視を決め込む事にした 挑発されていると察し 今此処でその挑発に乗ってしまうのは得策でないと判断したが故だった 「……まぁ、いいでしょう」 アルベルトのそれにト―リスは微かに肩を揺らし 部屋へと到着するとアルベルトをベッドの上へ まるで女性を扱うかの様に丁寧に降ろした後 軽く会釈し、そのまま部屋を後にしていた 「――っ!」 小馬鹿にされている感が否めず、腹が立ってきたアルベルト ト―リスの姿が見えなくなるなり、枕を掴み上げ扉へと叩きつけていた 「……どうかしたの?」 それとほぼ同時に、何処からか声が聞こえてきた その声が何処から聞こえてくるのか 声の主を探し、アルベルトは視線を彷徨わせる だが何処にも誰も居らず、空耳かと小さく息を吐いた、次の瞬間 「……ここだよ。庭師の人」 すぐ目の前にその人物が現れた その声の主は、掌におさまってしまいそうな程の大きさの妖精 間近すぎるその立ち位置に、アルベルトは自身の身を僅かに引いてみる 「……今日は、花を手入れしてくれて、有難う。とても、綺麗になった」 漸くその前身が見え ありがとうと改めて頭を下げてくる相手へ アルベルトは緩く首を横へと振って返していた 「あなたなら、女王様を元に戻せるかもしれない」 徐なその言葉 元に戻せる 妙な言い回しをする、とソレを追及してやれば 「……女王様、前はあんな風じゃなかった。私達を大切にしてくれる優しい人だったのに」 変わってしまったのだ、と顔を俯かせる だがすぐに顔を上げ、アルベルトを見上げながら 「女王様のお部屋にね、紫の薔薇の鉢植えがあるの」 「紫の、薔薇?」 「そう。きっとそれが、女王様を変えてしまった……」 だからどうにかしてほしい、との想いの込められた視線 純なそれにまじまじ見上げられてしまえば 余程捻くれたモノでなければ否とは言えないだろうと アルベルトは溜息を返答代りに返していた 出来るか分からないが何とかしてみる、と返した次の瞬間 妖精の背後に不意に影が現れた 何かとそちらを向いてみたのとほぼ同時 妖精の姿がその影に呑まれて消えていた 何か噛み砕く様な音が聞こえ、その姿が段々と顕に 「……鵺、か」 尾に従えた蛇を引き摺りながら全身を現わせば 間を置く事無く鵺が床を蹴る 何故、こんな処に獣が居るのか 考えるよりも先にアルベルトは回避しようとベッドから飛んでおりる だが痛めてしまっている左脚は思うように動いてはくれず アルベルトはそのまま蹲ってしまう羽目に 避ける事も逃げる事も出来ない現状 その隙を突かれない筈はなく 鵺は明確な殺意を持ってアルベルトへと迫り寄る 狙うは、左脚 鋭い牙が口元から覗いた、次の瞬間 「止めなさい。鵺」 不意に聞こえてきた声からの制止に、獣の動きがピタリと止まる 次々と一体何のか、そちらへと向き直ってみれば 其処に、何故か女王が立っていた 鵺を手招くと、そのまま戯れる事を始め アルベルトはその様に僅かばかり違和感を覚える 酷く、穏やかな印象だと 「……ヒトを襲ってはダメだと、あれほど言ったのに」 いけない子だと、まるで子供に言って聞かせるようなソレに 鵺は途端に従順になる 「あなたが、新しく来て戴いたという庭師の方ですね。初めまして。私はハーツ・モネラと申します」 アルベルトへと向いて直ると、まるで今初めて会った様な挨拶 よそよそしいとさえ感じてしまうソレに アルベルトが違和感を覚えない筈はない 「私の顔に何か付いていますか?」 すっかり凝視してしまっていたのか、女王は僅かに照れたような顔 その表情は前日とはまるで違った印象を受ける アルベルトの動揺を感じ取ったのか 植物たちが途端にざわつき始め、何かを伝え始める 「……別人格の介入、か。成程な」 植物からのその情報に もしそうなら打つべき手立てはあるのかもしれない、と アルベルトは僅かに見えていた活路に肩を小さく揺らす 「……あの」 その様を不思議気に見ていた女王 気付いたアルベルトは女王へと穏やかな表情を浮かべて見せ 右手を掬い上げると甲へと口付けた 突然のソレに呆気にとられた様な女王 作ったそれではない仕草に 前へ |次へ |
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