《MUMEI》 新斗の嘘。「い、いやミクちゃん。見たことない顔だったんでしょ?だったら知らない人だよ。僕達も知らなかったし」 とっさに言葉が出た。 「………、そっか」 腑に落ちないような顔をしたけど、その事はもう尋ねてくることはなかった。 「で、知らせって」 「ああ。逆間、今の三谷って女生徒は、逆間の会社の社員の娘らしい。………お前の親父が倒れたらしい」 「……………え?」 呆けるミクちゃん。 新斗……!いくらなんでもそんな嘘………! ショックを受けたように硬直し、ミクちゃんの瞳は小刻みに揺れ、今にも涙が溢れ出そうだった。 「新……斗くん」 「………お礼というのは、お前の親父関連らしい。早く行ってやれ」 「……………うん」 カバンを肩に掛け、文化室の扉まで駆け足で去る。 「ミクちゃん!」 つい、去ろうとするミクちゃんの左腕を掴む。 こちらを向くミクちゃんの瞳には、既に涙が溢れていた。 「…………」 僕は、何も言えなかった。 歪むミクちゃんの表情。僕の手を振り切り、ミクちゃんは今度こそ、文化室から去った。 心が、抉られるようだった。 「新斗ぉお!てめえなにもそんな嘘を吐くことはなかっただろう!!」 『俺』に切り替わり、新斗の胸ぐらを掴む。 「正直に言えばよかったのか?」 胸ぐらを掴まれていることに毛ほども気にしていないようで、冷静すぎて、極冷気な目で『俺』を見る。 「ああ言えば、逆間は必ずここを去る。多分や恐らくじゃダメだ。確実に逆間をここから出て行かせなくちゃならなかったんだ」 「だからって……!」 「お前にできたのか?」 「ッ!」 「他力本願で後から文句を言うな」 胸ぐらを掴む手を、新斗はそっと静かに放した。 『俺』は引っ込み、『僕』に戻る。 だけど、体が動かない。 図星だった。 僕はいつも、他力本願ばかりだ。 2年前だって、結局『僕』は『俺』に縋った。 拳を握り締める。 くそっ。 僕は、強くなりたい。 前へ |次へ |
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