《MUMEI》

―――あなたは、今、幸せですか?


幸せ、なんかじゃ、決してない。反射的にそう思った。
というか、一体何なんだこの手紙は。書いた奴の気持ちがさっぱりわからない。人の幸せを聞いてどうするんだ。
文章の下の行には、《Miwa》と書かれていた。ペンネームか。
ついさっきまで自殺願望が芽生え始めてきた時にこの手紙。何だか狙ったようなタイミングだ。
一瞬、返事を書くという発想が生まれた。だが、すぐにどうでもよくなった。
なんでこんな得体の知れない手紙に悩まなきゃならないんだ。こんな手紙に構っている余裕は無い。くだらない。
ため息を零しながら見上げる。澄んでいて、とてもキレイな晴れ間模様だった。
俺は太陽の陽気に当てられたのか、いつの間にか鳴り出したオルゴールの音に誘われたのかはわからないが、うっすらと意識が途絶えていく。
気がつけば、もう夜中だった。
オルゴールはさすがに鳴っておらず、星座が見えるくらいキレイな夜空だった。
目元に違和感があり、触れてみると、濡れたような痕跡があった。
…………どうやらこのオルゴールの音色に、本能的に心が反応しているのかもしれない。
いつまでもこのオルゴールの音色を聴いていると、心を晒されているような気分になり、嫌悪感が芽生える。
オルゴールの音色の根元であるネジを多少強引に止め、ベンチから立ち上がった。
帰りが遅くなった。別に心配する人は誰もいないが、俺は今、ゆっくりと眠りたい気分だ。
俺はさっさと手紙をオルゴールに戻し、帰路に付く。



―――あなたは、今、幸せですか?


しばらく歩いていて、立ち止まる。
気になる。
何故あんな事を書いたのか。何故あんな事を尋ねるのか。書いた奴は何を思っているのか。
その全てが、気になった。
俺は今通った道を逆走した。久しぶりに動かす体は鉛のように重い。随分距離が離れている。けど、走らねばならない。
あの文章が消えてしまうと、思ったからだ。あんな弱々しく書かれた字………返事を書かなきゃ消えてしまう。消えてしまえば、永遠にMiwaの真意は見れない。
耳に、あのオルゴールのメロディーが、入る。
おかしい。あれは鳴っているはずがない。俺がこの手で止めたはず、なのに。
だが、その疑問はすぐに隅へ寄せた。音が聞こえるということは、近付いているということだ。
最後の体力を振り絞り、加速する。
それから十数秒せず、オルゴールのあるベンチにたどり着いた。
俺は溜め込んだ息を天を衝くように吐きながらドカッとベンチに座った。
息を整える。
俺はこれを書いた、Miwaって奴に興味がある。それだけで、返事を書く理由に足りると思う。
オルゴールからペンを取り、キャップを外し、三つ折りされた手紙の文章の次の行に俺は殴り書きした。


―――俺は、不幸です。あなたは、幸せですか?

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