《MUMEI》

独り言の様に呟いて
伸びた手が豊田を引き寄せたかと思えば
何時から忍ばせていたのか、ハサミを取って出す
ソレで何をするつもりか、問うよりも先に相手が動いた
「――っ!?」
唐突に切り刻まれた衣服
驚く暇もないまま押し倒され、その着衣を乱される
「何の真似か、聞いてもいいか?」
問うては見るが返答はなく
切りつけられた着衣の其処に、、相手の持っていた布切れが宛がわれた
訳が、全くもって解らない
この少年は一体何がしたいのか、自分に何を望んでいるのか
ソレを今直ぐに問い質してやりたくて仕方がない
「……こうやって、心も繕えればいいのに」
「……?」
そう呟いたその顔は寂し気で
この少年は心根に綻びがある様に思えてならなかった
だがそれを理解してやる義理は豊田にはない
「……まぁ、いい。取り敢えずお前、家に帰れ」
「何でですか?」
「お前を置いてやる理由が俺にはないからだ」
「……なら、なんで僕の事、此処に連れて来たんですか?」
放っておけばよかったのに、とでも言いたかったのか
負手腐った様な表情をしてみせる相手へ
豊田はあからさまな溜息を吐いて見せた
「溜息、吐いた」
「……吐くなって方が無理だと思うが?」
今の現状では、と続けてやれば
相手はそれ以上何を言う事もせず、その場を後に
手酷く開け放たれた戸
同じく手酷く閉められ
その音の喧しさに、つい人差し指で耳の穴を覆っていた
「……何なんだ、あいつは」
返ってくる事のない独り言での問い掛け
訳が分からない、と髪を掻き乱しながら
豊田は少年に縫い付けられたシャツを眺め、深い溜息をついてしまっていた……

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