《MUMEI》

…………は?
両親が、死んだ?
一瞬、言葉の意味がわからなくなった。
何故だか紙を持つ手が震えだす。たった一枚の手紙が、まるで岩のように重く感じた。
俺から聞いといてアレだが、こんな事書かれて、返事のしようがない。何も言えない。
励ますか?ダメだ。中途半端な優しさは、優しさじゃない。
そんなの、無責任だ。
辛かったね、とでも書くか?ダメだ。本当に辛い時、同情されると自分が惨めになる。
そんなの、俺だったら耐えられない。
というか、何で俺はこんな事に悩んでいるんだ。
俺には関係ない。
確かに、俺の不幸はちっぽけなんだろうと思いはした。だが、そんなの感じ方は人それぞれだ。
少なくとも、俺の身内で死んだ人間は知らない。だから俺はMiwaの気持ちはわからない。もしかしたら同じような気持ちは芽生えないかもしれない。
だから、同情なんか、できない。したくもない。Miwaに惨めな思いは、させたくない。
だけど、同情は死んでもご免だけど、他の《情》だったら、どうなんだろう。
何だかんだで、俺はもしかしたら、この手紙の相手、Miwaに救いの手を差し伸べているのかもしれない。
俺はもしかしたら、この手紙のやり取りを続けていきたいと思っているのかもしれない。
俺はもしかしたら、Miwaに救われたいのかもしれない。
だから、俺は書こうと思った。返事を。同情じゃない《情》を。
それじゃあ、どんな《情》を?
友情?いやいや待て待て。まだ俺とMiwaは友達どころか顔すら合わせていない。
非情?いやいや待て待て。これ以上追い詰めて一体どうするつもりだ。
愛情?いやいや待て待て。俺はMiwaに惚れているわけではない。
そうだ。だったら人情はどうだろうか。思いやりだ。思いやりの精神だ。
俺は少し文章を考える。文才は無いので、うまく書けるか心配だが、やるしかない。


―――Miwaさんのご両親のご冥福を祈らせてもらいます。俺は身近に人を失ったことがないので、気持ちがわかるとか、同情するようなことは言いません。ただ、一つだけ言わせて下さい。
元気を出してください。
―――俺は《You》と言います。

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