《MUMEI》

 イシユミは何とも言えない焦燥にかられて、目を覚ました。
 身体を起こすと、まだ夜は明けておらず、窓外からは月光が差し込んでいる。
 斑藍の鉱石に慌てて視線を送ると、今までと何か違っているような気がした。
 寝床から抜け出し、鉱石に手を伸ばす。しっかりと握って取り上げる。
 よく見ると鉱石の輝きが変化していた。
 藍の部分が、何の変哲もない光彩を見せる。
 あれほど綺麗に思えた、光の屈折による濃淡の変化も見られず、凡庸な鉱石となっていた。
 イシユミは夢の内容を覚えている。以前見た不思議な夢をも思い出していた。
 目覚めてからずっと、片目が失われてしまったような気がしていた。
 実際には、ちゃんと見ることができるし、無くなってもいないのに。
「残念。もう一つも欲しかったんだけどな」
 タカイチの呟きが、静寂に落とされる。夢の陰の声と彼の声が重なった。
 一体、どういうことなのだろう。
 疑問が顔に出たのか。
「知りたいのは、これのこと?」
 タカイチの手のひらから、奇術のように藍色の玉が現れた。
「それとも、」
「始めからだ。全てを」
 イシユミは続ける彼の言葉を遮った。
 訳のわからない感情に支配されてしまっているのが、不可解だった。
「僕の生業は採掘人だ。そう、鉱石のじゃない。僕が採るのは、夢」
 イシユミは、タカイチの指先で玩ばれる一粒の藍玉を見る。
「色彩のある夢は、極上だ。中でもこれは最高級。味覚まであっただろう?きみは酔夢の力が強いから、少々細工させてもらった」
 淡々と、語られる言葉に血が逆流しそうになる。

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