《MUMEI》 一通目 from Miwa5日前、事故で両親が死に、その数日後にあった葬式は何の実感のないまま無事に終わった。 気が付いたら、昔家族でよく訪れていた公園を歩いていた。昔両親に買ってもらったオルゴールを持って。 涙はもう出し尽くしてしまったのか、涸れていた。 絶望した。 この世には情はないのか、と思った。 近所には祖父や祖母はいたけれど、悲しみは変わらない。 自分で言うのもアレだけど、私はまだ両親が恋しい年頃だと思う。というか、両親が死んで悲しまない子供はいるのだろうか。いたらその人は異常だ。 なんだろう、この喪失感は。 なんだろう、この不幸は。 この場合の不幸は一体誰がだろう。 私か、両親か。 半世紀も生きられないまま、やりたいことをたくさん残したまま、死んでいく不幸と。 家族に遺され、孤独にされ、一生家族の無念と悲しみを背負ったまま、生きる不幸は。 どちらも不幸だ。けど、人は不幸を選べない。当然私も、選べなかった。 幸せになりたい。けど、なれなかった。選ばれなかった。 私はちっとも幸せではない。 オルゴールはその時、急に音を奏で始めた。 それに私は驚いた。このオルゴールはゼンマイを回した分だけ鳴るようになっているが、私はもう何年も回していない。 その音が心地よくて、昔を思い出した。 そしたら悲しくなって、涸れたと思った涙がまた溢れてきた。 池の前のベンチに座り、涙が止むのを、家族の思い出を振り返りながら待った。 私は不幸だ。それは確実。 でも、当たり前だけど、人には必ず幸せと同じくらい、不幸は訪れる。 私は、少しばかり早くて、親が死んでしまうという不幸が、いっぺんに来てしまった。 それだけとは言いたくないけど、要はそういうわけだ。 頭の中で、思い出の両親が何度も私の名前を呼ぶ。 美羽、美羽、と。 その声を私は、一生忘れない。けど、振り返ったりはしない。 確かめようと思った。ここに来た人に。 不幸か、幸せかを。 見定めたい。幸せを。 他の人と比べるなんて、おかしいとは思うけど。 世界で一番不幸だなんて、認めたくなかった。 私はいまだに溢れ出る涙を拭い切った。 ブレザーの制服の胸ポケットからボールペンを取り出す。内側ポケットに常に入れている手帳のメモ書きを一枚ちぎって、私は震える手で、綴った。 ―――あなたは、今、幸せですか? 前へ |次へ |
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