《MUMEI》

心の底から安堵とした。
宝物の、両親の形見のオルゴールが見つかって、本当に良かった。
近付くにつれ、オルゴールの音は鮮明に聞こえていた。また、勝手に鳴り出している、不思議なオルゴール。
私はベンチに座り、そっと胸をなで下ろす。
少し休憩したら帰らなくては。外出は許してくれたけど、たった1時間だけだ。まだ20分ほど余裕があるけれど、おばあちゃん達に心配をかけたくない。早いに越したことはない。
オルゴールの蓋を開けると、音は止んだ。紙とペンが入っていた。まぁ私が入れたから知ってるんだけど。
紙を持つと、手が少し揺れた。
何かを感じ取った。
無意識で。
私は、何かを。
まさか、返事が書いてあるのか?
私がまるで、勝手に自問したような一文に、返事が書かれているのか?
さっきよりも、手は揺れだした。
広げる勇気が湧かない。
もしもこれで幸せです、と来たらどうする?
私はこの手紙を八つ裂きにしたくなるだろう。
もしもこれで不幸です、と来たらどうする?
私は相手にあなたにどんな不幸が訪れようが、私には関係ない、と自分を棚に上げて思ってしまうだろう。
その二択。この期に及んで、どちらでもないという回答はないだろう。多分。
オルゴールは鳴り出した。
それに驚き、紙を落としてしまう。その際に、紙は広がり、私の一文の下の行に、書かれていた。


―――俺は、不幸です。あなたは、幸せですか?


その返事に、私は心を撃たれた。
先程イメージしていた返答なのに、イメージと違う事を思ってしまっていた。
俺。男。返答者は男。
顔が真っ赤になるのを感じた。
私はまるで男子に縁が無かった。まったく話したことがない。共学なのに。
しかも、見ようによってはポエムとも見える一文を、見て、考えて、返事をくれた。
気が動転する。
しかもそれだけじゃない。この返答者は、不幸と言っていた。
それなのに、何故私に幸せかどうかを聞いてくるんだ?なんだかカウンターを食らった感じだ。
私が、幸せか、どうか。
記憶が、思い出が、過去が、頭の中に蘇ってくる。
また涙が溢れてきた。もうどれだけの水分を目から放出したかわからない。
私は迷う。その返事を書くかどうかを。
このままオルゴールを持ち帰るかを。
それで私は、決めた。返事を、書くことに。
そして、私の、不幸を。
返答者の不幸も気になった。もしかしたら、私よりも、不幸かもしれない。
私は震える手でペンを持ち、綴った。

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