《MUMEI》

アルベルトは今の彼女は別人格なのだと確信する
「申し遅れました。私はアルベルト、庭師です。我が主よりこちらへ来るよう言い使って来ました」
「そう、ですか。ジゼルは、お元気?」
「主を、御存知で?」
「ええ。以前そちらを訪ねて行った事があるんです。お会いする事は出来なかったけれど」
「そうだったんですか」
「ぜひその機会が有ればお会いしたいものです」
何か思いだす事があるのか、ひどく楽しそうな様
まるで子供の様な表情を浮かべて見せ、女王は徐にアルベルトの腕を引く
何事かとその顔を見やれば
「連れて行って下さいませんか?」
との申し出
切望する様なその表情に、流石のアルベルトも否とは返せず
どうしたものか、と頭を抱えていると
「……連れて帰ってくればいいのに」
不意に聞こえてきた声
耳になじみ過ぎているそれに向いて直ってみれば其処に
クラウスを従えたジゼルがまた立っていた
「……お嬢。お前、また……」
此処に来る事を何故止めなかったのか、とクラウスを睨みつければ
既にそれは試みたのだと苦笑を浮かべ肩を竦めて見せる
従者二人が頭を悩ませている事など構う事もせず
ジゼルは女王の前へとゆるり歩み寄ると、手を差し出していた
「ハーツ・モネラ。貴方とはゆっくり話がしてみたい」
屋敷へと尋ねて来てほしい、とのジゼルへ
女王は間をおく事無く、すぐ様承諾して返す
「じゃ、私達は先に帰って待ってる。アルベルト、後お願い」
「……結局、そうなんのか」
溜息を深々付いてしまえば、ジゼルが徐に腕を引いてくる
耳を貸せとのソレに、膝を折って耳を貸してやれば
「道中、気を付けなさい。また人格が変わらないとも限らないから」
一応は心配してくれているらしいジゼルへ
アルベルトは口元に笑みを浮かべ、ジゼルの頭を掻き乱した
何をするのかと文句をいい掛けで
ジゼルはそのアルベルトの笑みに大丈夫だと確信したのか、クラウスを連れその場を後に
「……私達も行きましょうか。陛下」
その背を見送ると女王へと向いて直る
柔らかくその手を掬いあげて、そのまま女王の身体を横抱きに
馬舎へと向かいその中の一頭に手綱を掛けると
女王を乗せてやり、アルベルトもその後へと乗り込んだ
「……私は、何所かがおかしいのでしょうか?」
走り出してすぐ、女王の呟く声
アルベルトは暫く何を返す事もせず
ある程度馬を走らせると徐に手綱をひき、その脚を止める
どうしたのかと見上げてくる女王
濁りのない、宝石の様な彩りの眼がアルベルトへと向けられていた
「……陛下。一つだけ、お尋ねしても、構いませんか?」
「何でしょう?」
アルベルトからの唐突のソレに女王は首を傾げ
だが答えてくれようとしてくれている様で
何かと再度問う事をしてくる
「……女王のお部屋に、紫の薔薇があると聞いたのですが、それは何処で手に入れられたものか、教えては戴けませんか?」
「紫の薔薇、ですか?私は、その様なものは覚えがないのですが……」
「覚えがない?」
「はい。薔薇の鉢植えは確かにあります。ですが、花の色は紫ではなく、蒼いモノなのです」
「蒼、ですか……」
「はい。それが、どうかしたのですか?」
アルベルトの問いの意図が分からず、小首をかしげてくる女王へ
アルベルトは緩く首を横へと振って見せると、何でもないを返し、また馬を走らせ始めた
そして主の元へと帰り着いたのは陽も暮れかけた夕刻
ジゼルが相も変わらずクラウスを従え、門前に立っていた
「……意外と、早かったわね」
一言、呟き、そしてジゼルはクラウスへと目配せをする
ソレが一体何を意味するのか
問うてやるより先に、クラウスが素早く身を動かした
クラウスの手には、いつの間に握られたのか細剣が一振り
その切っ先を迷いも躊躇もなく女王へと差し向ける
「……な、何をするのですか?どうして……」
唐突なそれに、女王は困惑した様子で
だがアルベルトは何らかの意図があるだろう事を察し、動く事はしない
「……い、嫌……。嫌ぁ!!」
自身の身を守ろうと無意識に身をかがめる女王
クラウスの切っ先が届く寸前
その女王の身を守ろうとするかの様に、唐突に薔薇の蔓が現れ女王を覆い隠していた
「わ、私が、一体何を舌と言うんですか?私、私は……」

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