《MUMEI》
逃げなきゃ
しかし、ユウゴたちが止まると同時にその水音も聞こえなくなった。

二人は顔を見合わせた。

 この状況で、ここを歩いてくる人間。
それは警備隊か、あるいはサトシ。
いや、他の参加者が移動している可能性もある。
どちらにしても、ここに隠れる場所などない。
近くには上へ出られる梯子も見当たらなかった。

 ユウゴはペンライトの明かりを消し、水音をさせないように気をつけながら移動して壁に背をあてた。
ユキナも同じようにユウゴの隣に移動する。

 二人は息を殺して相手が動き出すのを待つ。
すると、しばらくして再び何者かは歩き出した。

バシャ、バシャとゆっくりした水音が聞こえる。

どうやら相手は一人。
警備隊ではなさそうだ。
ならばサトシか、他の参加者かのどちらかだ。

 だんだんと水音が近くなる。
しかし、一向に明かりは見えてこない。
相手はこの暗闇の中、手探りで進んでいるのだろうか。
ユウゴはいつでも動けるように体を低く構えた。
すると、さっきまで一定のリズムで聞こえていた水音が突然、乱れた。

バシャバシャバシャと激しく跳ねる音が聞こえたかと思うと、そのままこちらへ近づいてくる。
さらに他にも同じような音が複数響いてきた。

「なんか、逃げた方がよくない?」
「……やっぱ、そう思うか?」
ユウゴはそう言うと、今来た方向へと体を向けた。
そして走り出そうと足を踏み出したその時、背中に大きな衝撃を受け、そのまま水の中へ倒れてしまった。
「だ、誰だ!」
慌てて起き上がり、ユウゴは背中に乗る何者かを振り払った。
「ごめん!」
「…え?」
素直に謝るその声には聞き覚えがある。
「サトシ?」
ユキナが確認するようにその人物を覗き込んだ。
「そうだよ」
サトシはそう言いながら起き上がり「は、早く逃げなきゃ!」と走り出した。
「お、おい、待てよ」
「ちょっと!」
慌ててユウゴとユキナもその後に続いた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫