《MUMEI》

何をするのかとその相手を睨みつけてやれば
其処に、あの人物が立っていた
「……手紙、気付いてくれましたか?」
「気付いた」
実際には気付かされた、だが
今はその事よりもこの内容の方が気に掛る
見つけろ、と言う割にいとも容易く目の前に現れて
この少年は本当に自分にどうして、何をしてほしいのだろう、と
怪訝な表情で相手を見据えていると
その視線に気づいたのか、相手は徐に踵を返し、その場から走り去っていく
その際、相手がチラリ豊田の方へと視線を向けた
まるで付いて来いとでも言いたげなソレに
豊田は深い溜息をつきながらも何故か気に掛り
その後を、追うていた
態となのか、見え隠れするその後を追うて辿り着いたソコは
あの公園
以前と同じ様に、滑り台に座り爪を齧っている
その周りには何処から持って来たのか、数体のテディベア
昨日と、全く同じ景色だった
「……見つけてやったぞ」
満足か、と続けてやれば相手がゆるり振り返る
そして見たその姿に、豊田は瞬間絶句してしまっていた
両の腕が血まみれだったからだ
何があったのか、と腕を引っ張ってやればその腕から
テディベアが一体落ちてきた
「……お前、それ取りに来たのか?」
昨日、そこに放置して行ったクマの人形たち
余程大切なのか、全てを抱きしめ
だが血塗れの腕で抱きしめていた所為か、全てがすっかり汚れてしまっている
その有様に、今は此処で問答をするよりも手当の方が先だと
相手の腕をとり、帰路へと就いた
自宅へとつき、腕を洗ってやり手当を施してやりながら
豊田は深い溜息をついて見せる
「……また、溜息」
「吐かせてんのはお前だろうが」
「……そう、なんですか?」
自覚がないのか、それ以上相手は何を語る事も止め
互いの間にあるのは、唯の沈黙
その静けさに先に耐え兼ねたのは、豊田
相手からクマの人形を奪う様に取ると、
流しに水を張り、中性洗剤を入れその中へとクマを入れていた
少しでも取れれば、と思いはしたがやはり
血液は綺麗におちる事はなかった
「……その腕、自分でやったのか?」
手は洗う事に動かしながら、問う事をしてやれば
話しを向けられた事に驚いたのか、相手は僅かに表情を変える
そしてゆるり首を縦に振ってみせた
「繕えば、見つけてもらえる、そんな気がしたんです」
「はぁ?」
相も変わらない訳の分からない答え
いい加減この無益なやり取りにも飽き、苛立ちに髪を掻き乱した
次の瞬間
唐突に首に腕を回され、引き寄せられる
何の真似かを問うよりも先に、唇が重ねられた
ソレまでの無気力な様は消え
貪るかの様に豊田を求め始める
見つけてもらえる様な気がした
その言葉が何故か気に掛って仕方が無かった
「見つけて、やれてないって事か」
口付けの最中に無意識に呟いていた言葉
だが相手は何を返す事無く、豊田に縋り付く
これ以上、何の言葉を交わした所で無駄だと諦めたのか
豊田は全身の力を抜くと、相手のしたい様にさせてやっていた……

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