《MUMEI》

何とかクラウスの刃から逃れ、ひどく震えて見せる女王へ
ジゼルは慈悲のない冷めた表情を向けてやりながら
「……貴方は、危険すぎる。だから、此処で処分する」
言い終わると同時、クラウスへと目配せ
穏やかな微笑を浮かべながら頷いて返し、また刃先を差し向ける
明確な殺意に、女王は声ではない叫び声を上げていた
「クラウス、アルベルト。耳をふさいで!」
この声を聞いてはいけない、とジゼルの怒鳴る声
その言葉通りに耳を塞ぐ二人
女王の声は長く響き、辺りの草木を一瞬して枯らしていく
「……マンドラゴラか」
見る影もなく枯れてしまったそれらを見、アルベルトは舌を打つ
そして自身の着衣の裾を噛み千切り、それを丸めて耳へと詰め込むと
アルベルトは徐にクラウスから剣を奪う様に取り、そして
女王の懐へと入り込み、その喉元を斬りつけていた
「あ゛……」
短い声を上げたかと思えば、喉元を押さえその場へと蹲る
どうにか声を出そうとしている様で
だが出てくるのは、喉を擦る様な呼吸の音ばかりだった
「……随分な荒療治ね」
呆れた様なジゼルへ
アルベルトは短く放っとけを返すと
「……お嬢。これの処分、少し待ってくれないか?」
と、申し出る
意外な申し出だったのか、ジゼルは僅かに驚いた様子で
アルベルトの方を僅かに見やり、無言で暫く対峙した後
「……わかった。アルベルト、アナタに任せるから」
何か考える事があるのだろう、と察し、その意図を汲んでやる
その温情に、アルベルトはゆるりジゼルの元へと歩み寄り、そして
ジゼルの頭へと手を置くと、そのまま髪の毛が乱れるまで頭を撫でてやった
「お嬢様、少しばかりアルベルトに甘くはありませんか?」
その様を見、口を挟んできたのはクラウス
僅かばかり怪訝な表情のクラウスへ
ジゼルは少女の容姿にはそぐわない、大人な微笑を浮かべて見せる
「だって、クラウスは、甘やかす理由が無いもの」
そうでしょう?と有無を言わせないソレに
クラウスは降参、返す言葉を失ってしまっていた
「……何か遠まわしに小馬鹿にされてる気がすんのは気の所為か?」
「気の所為よ」
穏やかに笑みを浮かべて見せるジゼルへ
ソレが気の所為ではない事を知らされる
だがそれを深く追及した処で仕方がない、と
アルベルトは女王の身体を抱え、その場を後に
そして向かった先は中庭にある温室だ
入れば其処に裂く草花達が一斉にアルベルト達を歓迎するかの様に綻び始める
「皆、元気そうだな」
辺りを見回し、鮮やかな彩りの花々にアルベルトの表情も緩む
女王を傍らにあった木の幹へと寄り掛からせると
常に腰に帯びている道具袋から剪定鋏を取って出し手入れを始めていた
「お帰り!アルベルト!」
直後、背後から聞こえてきた声
聞き馴染んだその声にゆるり向いて直ってみれば
顔面に何かが突進してきた
ソレが何なのか解ったアルベルトは僅かに肩を揺らし
「相変わらず元気がいいな。リヴ・フェアリー」
張りついたままのソレをやんわり引き剥がしてやれば
リヴ・フェアリーははにかんだ様な笑みを浮かべて見せる
「……アルベルト。この人、誰?」
だがすぐにアルベルト越しに女王の姿を見つけ
モノ珍しげにその周りを飛び回り始めた
「不思議な花の匂いがする。この人」
女王へと近く寄り、鼻を動かすリヴ・フェアリー
その香りを更に近くにと寄った、次の瞬間
女王の眼が突然に見開き、リヴ・フェアリーへと手を伸ばす
その手は明らかに殺気を孕み
アルベルトは咄嗟にリヴ・フェアリーの身体を自身の方へと引き寄せていた
「ア、アルベルト。この人、なんか変だよ!」
身体を震わせ縋りついてくるリヴ・フェアリー
ソレを庇ってやりながら女王の方を見やれば
視線が正面から重なったと同時、女王の全身から多量の蔓が湧いて現れた
全てを覆ってしまいそうな程のソレはすぐ蕾を付け
女王は自我を失った虚ろな目でアルベルトを見やる
「……あなたのホーンを、私に」
言葉の終わりと同時、女王は全ての蔓をアルベルトへと伸ばす
多すぎるソレに、だがリヴ・フェアリーだけは逃がしてやろうと
アルベルトがリヴ・フェアリーを庇うように身を翻せば
その蔓はアルベルトの全身を絡め取った
「……っ!!」

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