《MUMEI》
イチ
 ……つまるところ、それは典型的な「心ノ病」患者の症状だった。
「チッ、よりにもよって末期症状かよ」
 茶髪が風になびく。彼の双眼が彼の怒りとやるせなさをあらわすかの如くスミレ色に輝く。
「面倒くさい」
 そうは言いながらも着ている白衣の内側から何かを取り出した。それはよく医者が使用するメスだった。
 彼の目の前にはやつれた女性がいる。ただやつれているだけならやりすぎのダイエットと思えばいいが、明らかに女性の体から生えた“ソレ”は人体にはあるべきモノではなかった。



 ……植物。
 普通、人体に生えるものではない。


「植物系と来たか、くそ面倒だ」
 彼はメスを右手で持つと一気に女性との距離を縮めた。白衣が少しはためき、まるで白いマントのように見えてしまう。
「生えている部分は手、足、胴体ってトコロか。頭はまだ生えていないのは幸いだった。そうだったら……」
 彼は少々苦い顔をした。
「殺さなくちゃいけないトコだった」



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