《MUMEI》
特別な女の子
「こんちは〜!!遊びにきたよん♪」

「あんたもっと普通に入れないわけ?」

おさがわせコンビは今宵の家に入るなり見事な掛け合いを披露した。

どう考えても傍迷惑な2人である。

「いらっしゃーい!!待ってたよ!!」

今宵はそのおさがわせコンビに笑いかけると、部屋に入るよう促す。

「・・・・・・いいのに、別に来なくても」

「そこ!!聞こえてるから!!」

にこにこと笑っている今宵の後ろで歩雪がボソッと本音を呟くと、紘がハイテンションなまま突っ込む。

やっぱおもしろいな〜この2人。

今宵は賑やかな2人を見て笑うと、秋葉に声をかけた。

「秋葉!!お茶入れるの手伝ってくれる?」

「いいわよ。煩いのはほっときましょ」

秋葉は自分のことは棚に上げてさっさと今宵の後について台所に向かう。

今宵はティーカップを用意しながら、先ほどの出来事について考えた。

あの時の感じ、なんだったんだろう?

今は何とも無いし、やっぱりただの貧血だったのかな。

そう、今宵は倒れた後しばらく安静にしていると、紘達が尋ねてくる頃には普通に動けるようになっていた。

歩雪はそれでも今宵の体を心配して紘達に会うのを勧めなかったが、今宵がもう平気だから、と言ったために渋々頷いたのだった。

ただし、『具合が悪くなったらすぐに言う』という条件付で。

歩雪くんってば心配性なんだもんなぁ〜。

今宵は条件を出した時の歩雪の心配そうな顔を思い出すと、クスッと笑った。

「何1人で笑ってるのよ?」

秋葉は思い出し笑いをしている今宵に、いぶかしみながら声をかける。

しかし何かを思いついたらしく、ニヤッと口元を緩めて意地悪そうに笑った。

「分かった。歩雪との【ラブラブタイム♪】を思い出してたんでしょ?やーねぇ♪」

「な、ななな何言ってんの!?」

所詮紘と同レベルだということに気づいていない秋葉は、顔を赤く染めた今宵をからかう。

「も〜隠さなくて良いのに」

「っ秋葉!!!」

「よかったわね」

もういっぱいいっぱいの今宵が思わず叫ぶと、秋葉はふと安堵したように笑った。

「・・・・・・へ?」

一変した秋葉の表情に今宵は呆けた声を発する。

秋葉はふふっと声を漏らすと、また今宵に声をかけた。

「何よそれっ。そんな間抜けな声だすんじゃないわよ」

だっていきなりそんなこと言うから・・・・・・。

今宵は秋葉の意図が分からず小さく首を傾げる。

「だから、『特別な女の子』になれてよかったわねって言ってるの!!」

秋葉は前に今宵に言われたことを思い出しながら言った。

今宵が心に抱えていた古い傷を初めて紘達に見せたあの日。

秋葉は、今宵の一歩も二歩も歩雪から離れようとしている言葉が忘れられなかった。



「私は『特別な女の子』じゃないことを分からないといけないと思ったから」



人に気遣いすぎる今宵は、その内ぼろぼろになってしまうのではないかと秋葉は本気で考えていた。

しかしその今宵が掴んだ幸せ。

このことが秋葉にとって嬉しくてしょうがなかったのだ。

「秋葉・・・・・・」

「さ、できたわよ。もう持ってくわね。あんたはカップ持ってきてね」

秋葉はティ―ポットを持ってリビングに足を向けた。

「秋葉!!」

今宵は堪らず秋葉を呼び止める。

「何よ」

秋葉はくるっと回れ右をすると、今宵の顔を見た。

「ありがと!!」

「何言ってんのよ」

秋葉は肩を竦めると、足を再びリビングへ向ける。

この前と一緒だ・・・・・・、と今宵は秋葉が歩雪たちと話している姿を見て微笑んだ。

秋葉はいつも私の見方でいてくれる。

秋葉が喜んでくれたこの幸せ、大事にしたいな。

「よしっ」

今宵は小さく意気込むと、カップを乗せたおぼんを持ってかけがえの無い3人に近づいた。

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