《MUMEI》

 「……お早う、ございます」
翌日、早朝
ソファで座ったまま寝入ってしまっていた豊田
いい加減に首が痛み、顰めた面で目を覚ませば目の前に
相手の顔があった
「……コーヒー、飲みますか?」
言葉通り、コーヒーが並々と入ったソレを差し出され
つい反射的に受け取ってしまう
「……このコーヒー、どうした?」
コーヒーのストックなど無かったハズだと訝しむ豊田
相手は視線を僅かにずらし、押し入れへと向けて見せながら
「あそこの奥の方に、入ってました」
インスタントだったが、と続ける
この際、このコーヒーがインスタントだろうがレギュラーのソレだろうが関係ない
一体いつのもなのか、それが何よりも気に掛り、つい問うてしまえば
「……大丈夫です。見てみたら、一年しか賞味期限、切れて無かったです」
平然とそんな返答
一年も過ぎていれば大概だと溜息をついてしまう
「美味しかったですよ」
「飲んだのか、お前」
物事に対し無頓着なのにも程があると文句を言い掛け
だが匂いにさしておかしなところはないので大丈夫だろうと
一口、飲んでいた
「……ご飯、食べますか?」
立てつづけに食事を勧められ
何を出してきたのか、並べられるソレを見てみれば
生卵と、茶碗に盛られた白米
「……」
余りにもシンプルすぎるソレに返す言葉を忘れ
だがそれをさも当然の様に豊田の向かいに腰を降ろすと、相手は食べ始める
豊田も仕方なしに食べ始めれば
「……今日は、仕事はお休みなんですか?」
「は?」
食べる手は止める事はぜず、相手が徐に問うてくる
行き成り何なのか、と僅かに視線を向けてやるが
その視線が重なるばかりで、それ以上何の言葉も続かない
結局豊田の方が痺れを切らし、何かあるのを問うてやれば
「何所か、連れて行って下さい」
行き成り、強請られた
何故、そんな事を自分に強請るか
どうにも脈絡があるとは思えず、溜息をついてしまう
「行きましょう」
そんな豊田を構う事もせず
相手は豊田の腕を掴むと、そのまま引きずる様に外へと出る
「ちょっ……、お前、何所行くつもりだ!?」
行き成り過ぎるソレについ声を荒げてしまえば
相手の脚がピタリと止まり、ゆるり豊田の方へと向いて直る
「……僕は、何所に行けるんでしょうか?」
解らない、問い掛け
どう返してやればいいのかが分からず、何を返す事も出来ずに居ると
「……何でも、ないです」
忘れて下さい、とまた顔を逸らしていた
結局、何所に目的地を定めるでもなく
豊田は相手と二人、街中を無駄に歩きまわるばかりだった……

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