《MUMEI》
2
「……すっごい不細工な顔」
翌日は、寝起きが最悪だった
昨日、結局夜明け近くまで街中を歩きまわった所為か
完璧に睡眠時間が足りておらず
仕事の最中も油断すれば瞼が落ちてきてしまう
「何?また真帆君絡み?」
鋭い処を突かれ、だが返事を返すのも億劫で
昼休み中と言う事もあってか、豊田はデスクに突っ伏して少しばかり寝る事に
「豊田、これ」
寝てやろうとした矢先、相手が態々音を立てデスクに何かを置いてくる
何かと想い、僅かに顔を上げ見てみれば
「……120円?」
硬貨が並べて置いてあった
その意図が分からず相手を見やれば
「あげるわ。それ」
コーヒーでも飲んで目を覚まして来い、と強制的に外へと追いやられる
何をするのかと異を唱え掛け、だが何を言った処で無駄と直ぐに察し
その小銭を手の平で遊ばせながら近くの自販機へ
適当な缶コーヒーを購入すれば最近では珍しくなった当たり付きの自販機だった様で
賑やかになった電子音が当たった事を知らせてくる
珍しい事もあるモノだと別の飲み物を襲うと手を伸ばした
その直後
「……僕、これがいいです」
唐突に現れてきた手がさらにそれとは別のモノを押す
その手が誰のものなのか
豊田は見ずとも何となくわかった様な気がした
「……お前か」
「はい。僕です」
そちらへと向いてみれば、居た
何故居るのか、と僅かに顔を引き攣らせる豊田を構う事もなく
相手は落ちてきたジュースを我が物顔で取って出し、飲み始める
「……みそ汁って変わったモン飲むな。お前」
自分ではまず買う事のないそれに豊田は怪訝な顔
飽いては僅かにその豊田の顔を顔を見やりながら
「……家で、飲む事がないから」
だから好きなのだと相手
中途半端に相手の事情を知ってしまって居るが故に何も返せない
「……豊田、玄さん」
「は?」
唐突に呼ばれた名
僅かに驚き、相手の方を見やってみれば
追うては素早く身を翻し、その場を離れようとしていた
「……昼休み、終わりますよ」
その手首を掴み、引き留める様にしてやれば
冷静に、そんな声が返された
腕時計を見てみれば真昼休みも残り僅か
これ以上無駄に問答をしているはなく
豊田はその手を離していた
「……あの」
踵を返し、歩き始めて豊田の背へか細い声が当たる
何かと首だけを僅かに振り向かせれば
「……今日、あなたの家に言ってもいいですか?」
窺う様な視線を向けられる
ソレがまるで捨て犬の様なソレの様に見え
豊田は否を返せなくなってしまう
「ありがとうございます」
僅かに表情をほころばせながら、頭を下げてくる
そのまま走って行く背を横眼で見やり、豊田も会社へ
「お帰り、眠気は覚めた?」
「……何とか」
努めて素気なく返し、豊田は業務へと改めて取りかかる
だがやはり眠気は完全には覚めきってはおらず、あくびを一つ
それでも何とか仕事をやり進めていると
「豊田君、ちょっといいかな」
突然、上司に呼び出された
何事かと、短く返事を返しそちらへと向かってみれば
何故か上司は豊田を連れオフィスの外へ
一体、なんなのか
いけないと解っていながらも怪訝な表情
「真帆は、最近どんな様子かな?」
「はい?」
唐突な問い掛け
何故そんな戸を子聞くのか、と豊田は更に怪訝な顔
ソレを察したらしい上司は若干慌てた様子で
「最近、君よく会っていると聞いたのでどんな様子かと思ってな」
言い訳じみた物言い
自分の子供だろうに、と内心毒づきながら
その最中に豊田は不意に思いだす事があった
「……テディベア」
何故、テディベアに拘っているのか
もしそれを知る事が出来れば、相手が何を求めているのかが分かるかも知れない
そう考えるに至ったらしい
「あいつ……、真帆君は何かテディベアに思い入れでもあるんですか?」
気に掛っていた事を尋ねてみれば、上司は僅かに驚いた様な顔
だがすぐに肩を揺らす
「……そうか。君にはあれを見せたのか」
「どういう事ですか?」
「真帆は、何処でそのクマを見せた?」
問うた事への返答ではない新たな問い
答えを得られない事に僅かばかり苛立ちを覚えてしまう豊田だったが
だが追及するのもあれだとその問いに答えて返す
「ウチの近所にある公園ですが」

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