《MUMEI》
梯子の上で
 三人は言葉を交わすことなく走り続けた。
バシャバシャと水が跳ねる音だけが響いている。

しばらく行くと下水道は三つに別れていた。
「こっち」
迷いもせずサトシが右へ進む。
右の水路に入ってすぐの壁に梯子があった。

 今までにもいくつか梯子があったが、この梯子は他のよりも長い。
なぜかここの天井は他に比べてかなり高いのだ。

サトシはその梯子を一番上まで登って止まった。
「お、おい?」
ユウゴとユキナが戸惑ったようにサトシを見上げる。
しかし、サトシは口に人差し指をあてて下の様子を見つめていた。
出口となるの蓋を開ける気配はない。
下ではバシャバシャと複数人の気配が近づいて来ていた。

このままでは見つかるのでは。

ユウゴはそう思うのだが、いまさら移動することもできない。
三人は出来るだけ気配を殺して時が過ぎるのを待った。

 いよいよ水音は近くなり、すぐ傍で止まった。
道を選んでいるのだろう。
数秒後、彼らは三手に別れたらしくバラけた水音が聞こえてきた。
直後、ユウゴたちのすぐ下に二人の黒服たちが現れた。

やはり警備隊だ。

 彼らのヘルメットに装着されているライトが波打つ水面を照らしている。
少しでも上を見上げれば、すぐ見つかってしまうだろう。

ユウゴは妙な汗を感じながら、下の様子を見守った。


 警備隊はなぜかいつまでもその場に留まっている。
ライトで水路の奥を照らし、二人で何やら話している声が聞こえる。
そして、ようやく一歩ずつ、ゆっくりと進み始めた。

よし、そのまま行け。

しかし、そんなユウゴの心の声に反応するかのように、警備隊の一人が梯子に気付いた。

頭の動きと共に、ライトが梯子を照らしだす。

ユウゴの喉がゴクリと鳴った。

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