《MUMEI》

「…そろそろ店番、終わりだね」
「…そう、ですね……」
私達の店番は九時から十一時三十分まで。
それ以後は自由時間になり、他の部やクラスの出し物を見に行くことができる。
「…赤羽先輩、良かったら一緒にまわりませんか?」
「…ごめんね
先約があるから」
それはある意味、予想された回答だった。
「…彼氏さん…ですか?」
「……ちょっと、言えないかな」
イタズラっぽく笑う赤羽先輩。
「…分かりました
私は他に誰か誘うことにします」
悔しいけど、仕方ない。
だって私は、負けてしまったのだから。

一人で文化祭をまわるというのは、なかなか精神的に辛いものがある。
仲良さそうに出店を渡る男女。
友達同士ではしゃいでいるもの達。
そんな中でも私は独りなのだ。
…赤羽先輩……。
どれだけそうしていただろう。
気がつくと、目の前に、一人の少女が立っていた。
「…翼、こんな所で一人なんてどうしたの?」
姉だった。
「お姉ちゃんだって一人じゃん」
「…鴒が『約束があるから』ってどっか行っちゃったからさ
全く…彼女と友達、どっちが大事なんだか」
ため息をつく姉。
「…で、翼は?」
「私は…その…
赤羽先輩に一緒にまわろうって言ったら、先約があるって断られて…」
「そっか…」
そして姉妹で沈黙。
「ねぇ、翼」
「…なに?」
「ボクの店番まででよければ、一緒にまわらない?」
「…何でお姉ちゃんとまわらないといけないのよ……」
「うーん…
一人だと寂しいから、かな」
ニコッと笑いながら彼女は言った。
「…仕方ない
お姉ちゃんを独りにすると心配だからね
一緒に行ってあげるよ」

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