《MUMEI》

時々、三毛がやってくる。試験の例題に生物学的分類でそれを表現しなさいと出たのならば、猫ではないと答える。三毛はいつも笑う。自分の毛並みを整えようと四苦八苦している僕を見上げて、不器用だね、あなたは本当に。もちろん三毛に勝てる訳もない。二の句も、すぐには継げないので敢えて低い身分の位置に甘んじている。カードゲームに例えるならば大貧民だろうか。でも、いつだって革命を起こせる。負け惜しみではない。僕は世間では物書きと呼ばれる類の職業で、源泉徴収の書類も自分で申請する。戻ってくるのは微々たるものだけれど、大貧民としては、それなりに上出来なのではないだろうか。実は職業欄に小説家と記入するだけでも罪悪感が生じる態なのである。今日も弱気を馬鹿だねと一蹴して、三毛は少し不恰好な僕の頭を温かな手のひらで包んで抱きしめるのだろう。いつだって三毛の体温は子供のように高いから、寝床もすぐに温まる。何故か冷え性気味の僕には全く羨ましい体質だ。告白してみよう。猫の瞳みたいに目まぐるしく変化する表情、耳元で囁く声、様々な仕草、書いていて既に恥ずかしいけれど、三毛が好きなのだ。僕だけの側にいてくれたらと思う。贅沢をいうものではない。三毛だから、明日、ふいにいなくなってしまうかもしれない。永遠なんてものはない。どうしてかって、それが世の理だからだ。僕は、知っている。

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