《MUMEI》 タコ焼き「へえ………狭いね」 当然のように部屋へ入り込んで、ミユウが言った。 「悪かったな」 タイキはそう言いながらも、ミユウの為に冷凍食品をレンジに入れる。 「ところで、なんでこんな朝早いわけ?」 「えー、昨日のストーカーさんが家に押しかけてこないか心配で」 「へえ、ストーカーねえ………って、もしかして僕?」 タイキは目を見開いてミユウを見た。 ミユウは薄く笑みを浮かべたまま続ける。 「昨日、警察に相談しに行ったんだけど、その間にもわたしの車の周りをウロウロされちゃって」 「おい」 「警察に証拠がないと動けないって言われたから、その様子を録ったんだ。あれ?そういえば似てるなあ、あんた。あのストーカーに」 「……いい加減にしてくれないかな?」 「何を?」 涼しい顔でミユウは端末を取り出した。 「冗談だよな?警察に相談って」 しかし、ミユウは薄く笑うばかりで答えない。 「おい?」 「相談したよ?警察に」 「………え!!」 「まあ、別のことだけどね」 「おどかすなよ。けど、別のって何?」 「……そんなことより、まだ?もう、かなり限界なんだけど」 ミユウはそう言ってタイキを睨んだ。 ちょうどレンジがチンと音を鳴らす。 「よく考えると、なんで僕がこんなことを。つか、ストーカーって自分の方じゃん。訴えるぞ」 「誰を訴えるって?」 端末を見たまま、ミユウが言った。 「いや、別に」 タイキは適当にごまかしつつ、ミユウの前に湯気がのぼるタコ焼きを置いてやった。 「……朝からタコ焼き?」 置かれた皿を眺めながらミユウが呟く。 「あのな!嫌なら食べるなよ」 さすがにカチンときたタイキが皿を下げようと手を延ばすと、ミユウは慌ててその手を押さえた。 「食べないとは言ってないでしょ」 「じゃあ、最初から文句言うなよ」 「はいはい」 ミユウは頷きながら熱々のタコ焼きを食べ始めた。 前へ |次へ |
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