《MUMEI》
一月○日(雨)
ひどい雨嵐の寒い夜だった。アパート扉の脇で、三毛は頭から濡れ鼠になっていた。三毛なのに。しばらく部屋にこもりっぱなしで、つい先刻、食料を調達しに外出して戻ってきた僕も、びしょ濡れに近い。風呂に湯を張りながら、買ってきたばかりの牛乳を温めて出してやる。三毛はカップに顔を突っ込んだ。よっぽど腹が減っていたのか、寒かったのか。どちらにしても屈託がなく、和む。恐らく、僕の隣の部屋の住人を訪ねてきたのだろうが、ここ数日戻ってきていないようだった。壁が薄いから、もし隣室で物音がすれば気がつくはずだ。何となく見覚えがある気がするから、今まで何度か通ってきていたのだろう。濡れた毛を乾いたタオルで頭から拭いてやる。三毛は目を細めて、されるがままだ。目の前の牛乳の方がきっと大事なのだ。隣の住人はどうしたのだろうか。今夜も戻ってくる気配がないから、晩飯も用意してやる必要がありそうだった。仕事が終了したところで良かった。仕事中の僕の食生活はひどいものなのだ。今晩は根菜の煮物に、豆苗と卵のかきたま汁。思い切ってレタスも購入したので、ブロッコリーを湯がいて、そのままサラダにする。料理をしている間に、風呂に入れてやって一段落。晩飯を出してやると、三毛は大人しく口をつける。どうやら口に合ったようだと安心して、僕の分に正座で向かい合う。久々の食事を満喫していて、気がつくと、三毛は畳に丸くなって眠っていた。風邪をひく、と一式しかない布団に下ろして、そっと目元を拭ってやる。生理的なものかそうでないのかわからない。一粒流れた涙。僕は、食卓を片づけてから、畳で眠った。

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