《MUMEI》 from Miwa「君だろ?Miwa………ってさ」 ハッキリとした口調で、私に尋ねる。 怖い、と思った。男の人に手を掴まれるのは初めてだし、こんな至近距離というのも、初めてだったから。 でも次の瞬間には、まさか、と思った。私の名前を知っている。だったら、そんな人はひとりしかいない。 「あなたが、You………さん?」 聞いた途端に彼は笑い慣れているかのように微笑み、私の両手を掴んできた。 「そう。俺がYouだよ。まさか、Miwaさんがこんな美人だったなんて、驚きだよ」 彼の手の温度を感じて、私の顔が紅潮していくのがわかる。 「そんな事………ないですっ」 私は彼の手の温度から逃げるように引き離した。 彼は名残惜しいように私の手を眺めていた。 「俺さ。君の手紙を見てから、ずっと、会いたいって思ってたんだ」 「え?」 「人っていうのは、自分を中心に物事を考えている。だから、自分は世界で一番不幸だって、痛い考えをするんだ」 彼は意味深に語り出す。 少し、わかる気がする。 「自分を中心っていうのは、俺も否定できない。けど、感じ方は人それぞれなんだ。その人が耐えられない不幸でも、別の人は耐えられる不幸だったり、するよね」 彼の言う不幸論には、反論点は見当たらない。それが正しいとは一概には言えないけど、私は共感できた。 私のような境遇の人は沢山いる。その大多数は私のように思い悩み、人生を呪ったはずだ。 不幸だと、感じたはずだ。 そして、それを乗り越えた人だって………いる。 「人、それぞれなんだよ。だから、聞くよ。君は………この不幸を切り開けるかい?」 彼は諭す。 私は、どっちだ。 答えは、イエスかノー。答え方は単純明解。 だが、その言葉は圧倒的に、重い 切り開けるのか 私は、この不幸を、切り開ける 私はそっと、口を開いた。 言うだけなら、簡単だったんだ 「私には………切り開けられないよ」 両目からポロポロと涙が溢れ出てきた。 無理だった 泣けるくらいに、情けない 私はまだ、両親が恋しい 不幸を乗り切り、認める事によって、両親が私の中にも存在しなくなってしまうんじゃないかと思えた そんなの、私には無理だった 「………それが、君の不幸か」 静かに口を開く彼。様子がおかしい。 まるで笑いを堪えているようだった。 「それが君の不幸なのか!はははっ!ヤりがいがあるじゃないか!」 彼は堪えていたものを爆発させ、牙を剥いた。 前へ |次へ |
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