《MUMEI》
channel 王子
別れた直後にもう会いたくなっている……。

部屋にある、切り刻んでバラバラにした衣服は捨てないで集めて残しておいてもらおう。
メガネ君の初めての記念……、残り香でも嗅がないと、何より禁断症状でクラクラする。

「あー……、やっぱり早くシたい……」

股関節が擦れ合うくらい眼鏡君と濃密に触れ合いたい……!
瞼を覆うとメガネ君の残像が見える気がした。

「一晩五万で俺のカラダ貸してやろうか?」

ヤマの馬鹿が、何の慰めにならない。わざとらしい溜息だって出てしまうさ。

事務所に着くと社長にたっぷりと絞られてしまった。
ストリートスナップに彼女(メガネ君)と撮られたこととが、別のスキャンダルのせいで最悪のタイミングになったらしい。

「プロの自覚が足りない、こういう人気商売で働くならファンを悲しませるようなことは止めなさい」

「結婚するから、俺と彼女との仲認めてくれないなら事務所辞めます」

自然と口から出た、嘘偽りの無い言葉。
野球も今の仕事も全部全部無くなってもメガネ君は傍に居てくれるし、笑い合えば一生楽しく暮らせる。

「今はこの時期だし深く追及出来ないし、スケジュールも詰まっているから聞かなかったことにするけど、この件はまたの機会に話し合おう。とりあえず温泉宿で暫く仕事しながら避難していて」

「ボイコットしようかな……冗談だけど」

社長に睨みつけられた、毎週ドラマ楽しみにしてくれているメガネ君の気持ちを無下には出来ないので辞める筈が無い。

「その時はヤマを見張りに付ける」

それは冗談じゃなかったら最悪だ……あいつの優柔不断なのには嫌気がさす。
出来ることならばメガネ君を連れていってしまいたかったのに。
頭をがしゃがしゃに掻き回して雑念を取り払う。

「温泉かー…せいぜい楽しむようにする」

携帯を盗み見ると、点々とメール着信の光が出て来て喜びに震えた。



==========

今日はとても楽しかったです。
俺ばかり楽しくて先輩が嫌な気持ちにならなかったか心配でした。

==========






そんな訳ないじゃないか……、最高のひと時だったよ!!
なんて、
肉声でじっくりと、口説き落としたいくらいだ。

「なんだ、まだ居たのか」

扉の隙間から社長が俺の様子を伺っている。

「社長……、メールでセックスしたいって間接的にどう仄めかせばいい?」

「…………」

本気の悩みだったのだが、社長の呆れ顔が忘れられない。

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