《MUMEI》

―――プシューー…


『終点です。終点です。こちらは――』




少しのにぎやかな声が広がる。


ドアが開いた電車に、冷たい風が入ってく。





―――あぁ、今年の春はなんだか寒い。


まだ着慣れない服を着て、私は歩き出す。

駅を出たところで私は少しばかり驚いた。


「すっごい・・・」


少し古びたアスファルトの先には私が今まで見てきた景色はなかった。

私が見てきた景色とは打って変わって―――田舎。


大きなショッピングモールに、ビル。大勢の人。
・・・そんなものはなくて。



小さな商店街が立ち並んでいて。
その周りを一面見渡すと、綺麗な川に野原に畑に・・・ビルなんか見当たらなかった。



そしてなにより――――空が綺麗だった。


あたり一面に広がる空は、雲ひとつない青空。澄み切った、空。

・・・なぜだか、無性に泣きたくなった。


桜の木から落ちる花びらがまた綺麗で、現実を見せられているようで。


こらえた涙が、煽られる。



目の淵まででかかった涙を、ぐっとこらえる。


そして、私には似合わない、自然の綺麗な道を一歩踏み出した。



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