《MUMEI》 from Miwa & You「You………さん?」 美羽は口をあんぐりとしていた。 「うん。俺がYouなんだ。………ごめん、その呆けた顔はどうしたの?」 「だって、Youさんが二人……」 その一言で、悠は瞬時に理解した。 「…そうか。お前がYouを騙ったのか」 本物の第三者は、殴られた頬を抑えながら悠を睨んだ。 「お前……悠真、なのか!?」 「やっぱり、竣吾かよ」 竣吾は驚きを露わにするが、悠は動じていない。 「お前のその悪趣味は随分と悪化してるんだな」 昔から悠は竣吾の本性を見抜いていた。そのため、楔の協力はできなかった。 「な、何でお前がここにいるんだ」 竣吾の質問を無視する。 「お前、見ていたんだろう。MiwaとYouのやり取りを。だからお前はMiwaさんの不幸に興味を持った」 竣吾と楔が別れた理由、それは楔が罪悪感で竣吾をないがしろにしていたからではなく、竣吾が楔に対して感じる魅力が移り、美羽に感じたからだ。 この場合の竣吾が感じる魅力は、不幸。 「俺が本物のYouだ」 竣吾自身、Youの正体が悠だったとは思いもしなかっただろう。 文通というのは、返事を出し合う事によって成立する。 MiwaとYouのような特殊な文通の場合、お互いの素顔を覗く、晒す事は最大のタブーだ。 そのため、竣吾は本物のYouが来てしまうという状況は考えていなかった。 「あなたが……本物のYouさん」 美羽の瞳から大粒の涙が溢れた。 もう大丈夫、と言われた気がした。 「どうするんだ、竣吾。やる気なのか」 悠は、眉間に皺を寄せ、左手の指を鳴らす。 「引きこもりのくせに、喧嘩のやり方わかってんのかよ」 メガネをクイッと直し、悠を、睨み付ける。 「ああ、知ってるよ。だからお前を躊躇いなく殴れたんだ」 即答する。 本気で人を殴れる学生はそう簡単にはいない。必ずどこかで加減してしまうものだ。 竣吾は舌を打ち、「不毛だ」と呟きながら立ち上がる。 「調子に乗るなよ。次は、必ず―――」 そこから先は、小さすぎて聞こえなかった。 こうして竣吾は去った。 足音も消えた頃、悠は膝からガクッと落ちた。 「ああぁぁ……。緊張した……」 膝は笑い、殴った右拳が痛み、震える。全身が震える。 「あれは全部ハッタリさ……。人を殴るなんて、初めてだよ」 声すらも震えていた。 情けなかった。 「………ふふ」 「………はは」 お互い、汗や涙でボロボロになりながら、二人は笑い合った。 前へ |次へ |
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