《MUMEI》
一月◎日(晴れ)
三毛は僕の歪な後頭部を抱えて寝ることを、お気に召したらしい。頭上でくしゃみが聞こえるので布団に戻してやるのだが、いつの間にか元に戻ってしまっている。寝相の問題か野生の勘なのか、まるで僕を慰めているような仕草だった。仕事で駄目出しを食らって、もう一度、始めから取りかからなければならない。数日間の徒労感に打ちのめされる。今夜からやれよと突っ込まれそうだが、まずは腹ごしらえを。渇望の気持ちが創造性を高めるのだ、などと、肩書きのある人は言う。けれども、飢餓で身も心も荒んでしまっては、日々を営んでいくことは出来ない。程々が、いいのだ。大体、気の弱い僕は揺りかごで揺られている方が、安心する。色々な意味で魅力的な誘惑には適うまい。日和っているとか意志薄弱とか、笑うがいい。残念ながら、今夜の僕には余裕が足りないようだった。天袋で眠っていた土鍋を発掘する。冷凍の鱈を半分だけ解凍してから鍋の一番下に沈めて、大量の白菜、シメジとシイタケを入れる。豚肉を少々、豆腐とあぶらげときたら、結局、味噌味にしてしまった。一度沸騰させてから、最後に水菜をたっぷり投入する。ついでに、かぶらと昆布を酢に漬けてみた。まだ味は完全に染みていない。やり直しの仕事に許可が出るころには、いい味になっているだろう。その前に食べてしまいそうだが。また頭上でくしゃみが聞こえて、我に返る。何も言わないし、何も聞かない。朝には、いつだってどこかへと消えている三毛。もう一度布団に戻して、今度は僕の腕でしっかりと抱く。今だけでもいい。その温かな体温を胸元に感じながら、眠りについた。

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