《MUMEI》
2.迷宮
須佐男は意識を取り戻すと、鮮やかなほど真っ白いシーツの上に横たわっていた。
体の上にはそのシーツと同じくらい、白い清潔そうな
布団が被せられている。
背中に感じる柔らかな感触で、自分が寝ているのはベッドの上 らしいのが解る

ベッドの周りを取り囲むように、カーテンが仕切っていた。
ここはどこ?
須佐男が暮らすアパートの部屋で無い事は確かだ。
病院・・・・?
その時カーテンの向こうから、父進一郎の声が聞こえてきた。
声を潜めるように誰かと話しているが、
その調子が妙に緊迫している。
「白血病?!そんな!!」
進一郎が急に抑えきれないように大きい声を上げた。
「非常に残念です が、持ってあと半年
かと思われます」
「そんな!!」
母雪子のすすり泣く声。
須佐男はその会話を聞きながらも、他人事のように実感がわかず、
(そうか・・・・僕、もうすぐ死ぬんだな)と、ぼんやり考えた。
十歳で死ぬなんて随分早い気もするけど・・・・。
そこでふと・・・・、違和感を感じた。
十歳・・・・?
白血病だったのは確か七歳の時だった筈だ。
だった?まるで過去に経験した事でもあるみたいに?!
だがそれより先に思考が進まない。
「大丈夫。大丈夫だ。きっと私が何とかする!」
すすり泣く母に父が言い聞かせている。

そこで意識が途切れた。

再び意識が戻ると相変わらず同じベッドの上だったが、周囲は真っ暗とは言わないまでも、大分薄暗くなっていた。
カーテンのむこうで気配がすると、細く隙間を開けて、父進一郎が顔を覗かせる。
人目を忍ぶように、素早く囲いの中へ入って来る。
「父さん?!」
「しっ!」
進一郎は唇に人差し指を当てた。
ポケットに差し込まれた右手が外へ出てくる。
その手には液体の満たされた注射器が握られている。
「願いは必ずかなう・・・・」
次の瞬間軽い痛みと共に、細い針の
先端が須佐男の右肘の下辺りに突き刺さり、アンプルの中の液体が急速に減っていった。

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