《MUMEI》

「信じられない!完治している!!」
診察室で柴親子を前に告げる医者。
その顔は奇蹟を目撃した者特有の、畏れの感情に支配されている。
「だが・・・・いや、あり得ん!」
「あなた!」
涙ぐんでいる母。
「だから言っただろう?強く願えばどんな願い事もかなうって」
「こんな症例は初めてだ。研究のため
に、須佐男君をもう少しこの病院に滞在させるわけにはいきませんか?」
「ははは!ご冗談を、先生!」
ぽかーんとしている医師を尻目に、そそくさと退院手続きを済ませて、意気揚々と病院を後にする三人。
その夜は久しぶりに我が家の布団に潜り込み、須佐男は言い知れぬ幸福感を覚えていた。
寝心地から言えば、布団よりもベッドのほうが良い筈なのに・・・・。
何せ数ヶ月ぶりの家族三人水入らずなのだ。
だがその夜中、須佐男は異様な寒さで目を覚ました。
枕元の時計は午前三時を示している。
いつもなら両親が眠っている両側の布団はもぬけの殻だった。
隣りの居間へ通じる襖が細く開き、この寒さをもたらした冷たい風は、どうやらそこから吹き込んでいるらしい。
襖の隙間からは蛍光灯のものとも違う
薄明かりが、ちろちろとこちらの寝室へ射し込んで来る。
何となく異様な雰囲気を感じて、須佐男は布団を抜け出すと、
「父さん?母さん?」
窺うように呼びかけながら襖を開けた。
ちろちろと漏れていた灯りは、テレビの画面が発していたものだった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫