《MUMEI》

以前学校の社会見学で行った、東京タワーの蝋人形を思い出す。
硬直した表情で、呼吸している気配さえも無い、完全に静止した両親の姿に、
喉元まで悲鳴がこみあがる。
よく見ると進一郎の顔の表面を、糸グモのようなものが無数にはい回っていた。
銀色にきらきらと光るそれらは、時に
皮膚の内側に潜り込んだかと思えば、
目尻や鼻や耳の穴からぞろぞろ出て来て顔の表面を走り回り、再び皮膚の内側に潜り込む。
皮膚の内側でうごめくそれらの為に、
進一郎の顔の表面は小さく波打っている。
ガサリ・・・・と後ろで音がして振り返ると、液晶テレビの右上の角が、まるで砂の城のように崩れ落ちるのが見えた。

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