《MUMEI》 畳の上に降り積もった元液晶テレビの 一部だった黒い砂山は、すぐに平らに潰れて、文字通り蜘蛛の子を散らすように、砂つぶの一つ一つが畳の隙間や 部屋の隅の暗がりへと消えて行く。 砂山を構成していた砂つぶは、進一郎の顔を這っていたのと同じ、銀色の糸グモだ。 気が付くとそれらは、そこら中で蠢いていた。 その動きの為に周りの景色そのものが、 奇妙に歪み波打って見えるほどに。 いや・・・・違う!! 景色そのものが、この小さな銀色の糸グモで構成されているのだ!! そう考えた瞬間、不意に何の脈絡も無くある言葉が頭に浮かんだ。 父・・・・柴進一郎はもういない!! 「うあ・・・・や・・・・だ」 何かを思い出しそうだった。 だが思い出したくない。 須佐男はその『何か』を拒絶した。 銀色の糸グモが足下からぞろぞろと這い登ってくる。 「夢だ!これは全部幻だ!」 須佐男の叫びに応えるごとく、崩れた 液晶テレビの一部が再生していく。 蛍光灯の明かりが灯り、両親の顔に 表情が宿る。 糸グモは居なくなっていた。 「ん・・・・、須佐男・・・・寝たんじゃなかったのか?」 「ま・・・・窓が開いてるから・・・ 寒くて・・・・」 「アラやだ」と母。 「いつの間にかこんな時間だ」 父も不思議そうに首をひねって須佐男を見る。 「明日は学校だ。須佐男も寝なさい」 「あ・・・・うん」 そう言う須佐男に、進一郎の目がいつもながらユーモアたっぷりにウィンクした。 「それともサボるか?父が許可する!」 「いや、寝るよ」 須佐男は大急ぎで窓を閉めに行くと、 寝室へ戻り布団へ潜り込んだ。 襖の隙間から居間の明かりが射しこみ、両親が小声で会話するのが聞こえてくる。 やっぱり寝ぼけただけなんだ。 明かりが消えた。 隣りの部屋の気配もそれと同時に消え、 ひそとも音がしなくなった。 だがもう、襖を開けて確めたいとは思わない。 今度は世界の全てが崩れ去ってしまうような気がしたから。 (明日の朝になれば、何もかも元に戻っているさ!) 須佐男は頭の上まで布団を引き上げると、闇の中で丸くなり、静かに涙を流しながら夜明けを待った。 前へ |次へ |
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