《MUMEI》
1話
暁 朱羽(あかつき しゅう)は天空市(現在の神奈川県)を走っていた。
時刻は8:15、そして学校の登校時間は8:20。
要するに遅刻ギリギリである。
「ああっ、くそっ」
今日は高1の夏休み明け初日。
遅刻するわけにはいかない。
キリキリと痛む足を全力で動かして、誠蘭高校に飛び込むと、そのまま教室へと走る。
チャイムと、暁が1年A組の教室に入るのは、同時だった。
「よしっ!」
「おー、暁。早いな」
そう言ったのは、前の席の淡希 光(あわき ひかる)だ。
「へ?」
見渡すと教室には、淡希以外誰もいなかった。
「そうか。もしかして、お前、忘れてた?...そんなお前に残念なお知らせだ」
「??」
「今日は一時間遅れの登校だ」
ニヤッと笑いながら、淡希は言う。
(...急ぐ必要なかった)

9:20。
やっとHRが始まった。
教壇に立つのは、篠原 叶絵(しのはら かなえ)先生だ。
「えー、今日はうちのクラスに転校生が来ました。皆さん、仲良くしてあげてくださいね〜。入っていいですよー」
ガラッと扉が開かれ、教室に入ってきたのは、女子生徒だった。
身長150ちょっとくらいの彼女は、篠原先生の隣に立つ。
その顔つきはとても端正で、基本黒だが、少し茶色がかった長い髪は光ってるように見えた。
「えっと、御咲 春香です。よろしくお願いします」
そう言って、彼女は頭を下げる。
「じゃあ、御咲さんは...暁君の隣に座って」
そう言って先生は、俺の隣の空席を指差す。
御咲は、言われた通りそこに座った。
暁と数秒、目が合った。
「よろしくね」
「ああ」
「さてと、それじゃあ今日は、試験を行います」
「えー、いきなりかよっ」
淡希が素っ頓狂な声をだす。
「文句言わない。それじゃあ、競技場に向かいます」
生徒たちは、ブツブツ言いながら、教室を出て行く。
「ねえ、暁...君」
教室を出ようとした暁に、御咲が話しかけた。
「ん?」
「なんで試験なのに、競技場に行くの?」
「...ああ、御咲さんって市外から来たの?」
「うん」
「そっか...。まあ、来ればわかるよ」

ー競技場ー
競技場はまるで、サッカー場のような所だった。
しかし、違うのはゴールのないこと。
競技場の客席部分に入った暁たちは、適当な席に座る。
御咲は、話ができるのがまだ暁だけなので、暁の隣に座った。
見ていると赤と青のベストをきた二人の生徒が、競技場で向かい合っている。
「天空市のような日本各地にある、独立都市には、一つの共通点がある」
呟くように、暁は言う。
『はじめっ』
突然、アナウンスが響いた。
同時に、競技場の二人の生徒は、どちらも後ろに飛び、距離をとる。
「それは、自然を超越した力の開発。すなわち...超能力だ」
ドバッと赤のベストを着た生徒の手の平から、炎の球体が飛び出した。
対して青のベストの生徒は、突風を起こし、炎の動きを強制的に逸らす。
「超能力...。あれが...」
思わず、御咲は呟いた。
27世紀...それは、科学の最大の目標を達成した世界である。

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